【とある旅物語・6】

【前回までのあらすじ】
北の地に旅に訪れた俺。
料理に舌鼓を打ち、
雪の降る中、懐かしさを感じながら、
その純白に心も洗われる。
翌朝目を覚ますと、そこには吹雪による真っ白な世界が待っていた。
イメージと違う現実に焦りながらも、宿を発つ準備を始めるのだった…

チェックアウトの前に、
もう一度窓から、外を確認する。

吹雪
っていうか、ブリザード。

言い方を換えても、何にもならないのは分っている。
で、
ここから、何時間も離れた我が家に帰らなくてはならない。
相棒を連れて。

とりあえずの見通しも立たないが、
アクションしてみれば、見通しは立つかも分からんぞ。
それが無いから、考える前にやってみることにする。
要するに、無計画ということですハィ

チェックアウトに向かう。
「…ありがとうございました」
と、フロント。

相棒のキーを受け取る。
最初の「…(不思議な間)」が気になるが、
言われていることは分かっています。

アンタ、帰るの
この天候で
しかも、なにその薄着

有難く、そんなメッセージを感じた。

分かってます、分かってるよー
だから言わないでー
わー

この時の、俺の装備は長袖Tシャツに羽織ったダウンジャケット、
Gパン、
そして、サンダルだった。
それは、何故か。

①だって、来るときはそのまま唐突に出てきちゃったんだもーん
②それは、計画性がなかったんだもーん
③よって、普段通りだもーん

①は②であり、
②は③、
よって、①=③でしょう。
どうよ、
この、こじつけの三段論法で!

そんなものでは無論、説得できない宿の方の心配を余所に、
「では ^^) 」
と、チェックアウトしてしまった!
そして、記念にこの装備の写真まで撮ってもらった!
この時、宿の壁に掛けられた時計を見る。
時刻を確認する。
午前8時50分だった。
そして、出口に向かう。

通常の入り口は大雪で開閉できず、
専用の出入り口からしか行き来出来ないとのこと。
宿の支配人が出てきて、通用口を案内してくれる。

途中、
「お客様、宿泊のご延長も出来る限り致しますが…」
と。

おお!
何というお気遣い!
渡りに船!

有難かった。

上司から命令された休暇は、7日間だ。
そのため、この間は仕事に差し支えはない。
現在、2日間目を使っている状態だ。
日にちの余裕はある。
しかし、それとは別に俺の懐事情が!
出来ないと言ってますぅ…

俺は感謝を述べつつも、出発することを話す。

「…お気をつけて。またのお越しをお待ちしております」

その言葉を受け、
専用出口から外に出る。                                                              途端、

ヒュゴオァァービューゥゥウゥゥバシBasiィィィぃ(´ω`*)

なにこれ。
何でしょうか、この冷気。
容赦なく襲ってきたぞ。
しかも、氷の塊付きときたか。
痛恨の一撃にいきなり出遭ってしまう。

瞬間、
「あ無理でしたもう一泊お願」
と、思考と言葉と行動が伴わないモノに成り果て、
引き返したくなってしまった!

しかし。

それは、後でも出来る。
今やることは、相棒の所に戻ることだ。

積雪の中をサンダルで進み、相棒の姿を確認する。
相棒はどっさりと雪まみれになっているが、
埋まっている訳ではない。
ドアを開ける前、ドアノブに積もっている雪を見る。

「…」

ここは、アレですよ。
ドアを開けるのに、リモコンを使わないといけないトコロですな!
鍵穴確認できないから!
普段、全く使用していないリモコン機能を使うことにした。
前に使ったのは、どのくらい前なのだろう、などと思った。
アナログ一番と考えていたが、ここで再びデジタルなそれを使うことになろうとは。
リモコンキーの、ドアの開閉ボタンを押す。

そして、

バコッ

と、何処かが開いた。

ドアのロックが解除されたことではないのは確かで、
開いたのはトランクだったのが分かった。
ドカッと、後部から雪が落ちる。
あれ?何か間違えたかい?
もう一度、「ドア」の開閉ボタンを押す。

反応はない。
なにこれ。
ついでに、トランクの方のボタンも押してみたが、
何の反応もないぞ。
肝心なドアロックの解除は出来なかった。

余談だが、この時、問題があったのはキーではなく、
既に相棒に搭載されているリモコン受信機能がおかしくなっていたこと
が、後(数か月後)に分かる。

そんなことはこの時には当然知らず、ただ
「雪のせいでしょ」
と決めつけ、俺は変わらぬアナログ作戦にて強引にロックを解除、
ドアを開けて車内に乗り込む。
同時に、そこかしこのバイザーから、何から大量の雪が車内に潜り込んだ。
ここまでたどり着くまでに、既に俺自身が雪まみれになっていたこともあり、
車内に入ってきた雪などは、どうでも良くなっていた。

シートに落ち着き、
前方を見る。

何も見えない
…というのとは違う。

見えているのは
フロントガラスに積もった雪
のみ。
真っ白。

キーを回し、エンジンをかける。
エンジンを唸らせて、相棒が応える。

そして、
何もならないと知りながらも、ワイパーのスイッチを入れてみる。

カチッ

その音がしただけで、ワイパーはピクリともしなかった。
うん。そうだよね。

しかし、もう一度

カチッ

ワイパーのスイッチを入れる。
ウントモスントモ

駄目なのにやってみる自分を、
少しだけ好きになったり嫌いになったりした。

暖房が効くまで待つか…と思いながら、
計器類を確認すると

ガソリンが!

ガソリンがない!!

なに、この限りなく「E」マークまで近いメーター!

それはですね、帰りの事を考えず、ボクが給油しなかったからです。
あれだけの距離、ガス欠になるのは必至で、
着くころにはそれが分かっていながら
「明日給油すればいいや」
とか、思っていたんですぅぅぅぅぅぅ
出発の時もそうだったし、
途中、お前の忠告にも耳を傾けなかったよ

ゴメンよ相棒!
謝ったから、許してくれ。
「イイよ、しょうがねえなこの馬鹿野郎」
と、相棒の声が聞こえた。
よし、仲直りしたぞ。

そして一方、あまり時間はない。

「…」

一旦、車外に出る。

俺は、必殺技
「最後の力の一歩手前」
を使うことにした。

これがどんな技なのかを解説すると、
ある目的を完遂するため、
全力=最後の力を「出す手前」に留めておく
という、非常にセコい技なのである!
しかし、その為に一度全力まで集中しなければならず、
そこでやっとその時の全力が分かり、そして一歩手前でやめておく判断を要求されるという、
コントロールがとても重要視される技なのだ!
それが故に多用は出来ないので、
「一日に3回までしかやっちゃダメ」
という、恐ろしいルールがあるのだ!
…以上、技の解説でした。

この場面においては、
積もったフロントガラスの雪を落とす事が目的となる。
それでですね、
その状況を表しますと、

ルンルンルン
ほうら、全然冷たくないんだよー
雪なんて、本当は暖かいのさー
ホレホレホレー
ドンドン、どかしちゃうよ♪
フロントガラスくん、どこに隠れているんだい?
恥ずかしがらずに、出てきておくれー
と、素手&ぶちかましにてクルマに積もった雪を落とす。
そんなことをやっていると、
…っていうか、冷たい!
だけど、あと少しできるかしら?
それ、もう一丁!
…けど、もうダメ!
冷たい!
あ、でも、あと屋根の部分を落として…
っていうか、もう駄目!
雪、やっぱり冷たいんですぅ!
誰か~!

…と、叫びたくなるところまでが、
この場における、必殺「最後の力の一歩手前」
となります。

この頃には、相棒に積もった雪の殆どを除けることが出来ていた。
間髪入れずに、相棒に乗り込む。
ワイパーを作動。

「ウィィィィン」

良し、動いたぞ。視界は確保した。
吹雪の中でも、少し先はわかる。
後は、ガソリンだが…
この問題に立ちはだかるのは、俺が宿に来た時に通った、
「ちょっと下り坂になっている道」だったのだ…!
(続く)


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