【とある旅物語・7】

【前回までのあらすじ】
何も考えずに、北に向って旅に出た俺。
そこで、吹雪で荒れた試練に向き合うこととなる。
宿を後にし、何とか相棒、クルマの元にたどり着く。
そして…

そういえば。
出発する前、「何処かへの片道切符」を手にした感覚だった。
それというのは、

これのことですか?
行先吹雪の一丁目?
復路ありませんよ?

片道切符の行先は、これでした!
判明したぞ!

…で、
往復切符にしておくべきだったかな?
良く考えてみるが、そんなことは今良く考えなくても良い。

とにかく、相棒の
限りなく「E」へと迫るメーター!
この解決が急務だ。

ガス欠を示す警告灯が、時折点いたり、そして消えたりしている。
カラー〇イマー?
特撮モノのパターンからすると、
あと30秒しか駄目じゃないの。

「…」

ワイパーの復活により、吹雪とはいえ前方の視界は多少確保された。
アクセルを少しだけ入れる。

ゴキュ

という、雪を踏むあの感触音が車内に響く。

「…」

良し。
後輪が流れ、フラツキはするものの、進めない訳ではない。
走行は可能だ。

ひとまずこの駐車場の敷地内から脱出するべく、
出口へと向かう。
宿に来るときに居た、駐車場を案内する方の姿は見えない。

こんな吹雪ですからな!
外に居ては駄目でしょう。
先を自力で進むことになるが、
視界が悪いことに変わりはなく、
しかも雪道だ。
アクセルワークも慎重になりながら、少しずつ前進する。

そこで、駐車場に入る際に通った
「ちょっと下り坂になっている道」
が見えた。

今の視点からは、「ちょっと登り坂になっている道」だ。


ここで、一旦停まる。
それは、

何だかヤバそうな気がしたから

です、ハィ。

一台も通った跡がないよ、この
「ちょっと登り坂になっている道」。
俺は周囲に違和感を感じていた。

何がおかしいかと言えば、
俺以外に動いているクルマが居ない!
時間的に、そろそろ他の宿泊客もチェックアウトで、
それなりに動き出すクルマが居てもおかしくはない。

しかし、
動くものがないのだ!

相棒の時計に目をやると、午前9時40分になったところだった。
この天候だ。
皆、宿で待機しているのだろうか。

この「ちょっと登り坂になっている道」
積もっている雪の状態からすると、
俺のファーストアタック                                         では、まず無謀。
何故ならば、相棒は冬タイヤではなく

ノーマルタイヤ

だからね!

この状況下では、登坂力がないのは分っている。
そのため、一台でも走ったクルマの後にできた

轍!

そこにハマり込もうとしていたのだ!
轍に足を取られてハマりながらも、
その跡は雪がどかされているからそれを走行しようという、
姑息な作戦に出ていたのだ!
そのため、もう少し様子を観ることにする。

しかし、刻々と迫る「E」、
点滅する相棒の警告灯が、
俺の焦りを焚きつける。
行くべきか、待つべきか…

そんなことで迷っていると、
駐車場から一台のクルマが動いた。
何でもないように走行し、
何でもないように「ちょっと登り坂になっている道」を、
走行していった。
それはSUV車で、足回りもしっかりしていた。
俺の相棒との違いは沢山、ある。

だが、

ッッしゃあ!(←音量注意)

この千載一遇のチャンスを逃してはならない。
俺はアクセルを踏んだ。
車体はブレるが、進めない訳ではないのだ。
早くしないと、せっかくの跡が雪まみれになっちゃうしね!
そして、
「ちょっと登り坂になっている道」に突入。

程なくして、
ツルツルツルツルツル

あれ?
これって、グリップ効いてないよね
ツルツルツルツルツル

あれ?
でも、少しずつ前進してるよ

ツルツルツルツルツル
そういえば、
摩擦係数ってなんでしたっけ?                                      µを求める解答を迫られていた。

けどね、
ちょっと待て、ちょっと待ってくれ!
一旦、下がって仕切り直ししたい。
下がろうとミラーで後方を確認する。

ミラーに映るそこには、
「クルマ」
の姿が。
俺の後ろに、ピッタリと張り付いている。

後続車が居たのだ!

吹雪の中の視界で、ミラーからこれだけ鮮明に分かるくらいに張り付いているのだ。
彼奴は、タダモノではない。

「すいません、俺ちょっと下がりたいんですけど」

後方のクルマに、強烈な念力を送ってみた。ものすごい念力を集中する。
「フムフム、ではワタシも下がろうかね」
そんな都合の良いテレパシーは、届かなかった。
テレパシー出来ないしね!

とりあえず、下がる事は出来なくなった。
背水の陣って、こういうコトかい?
用途が全然違う気がするが…
よって、進むしかない。

だが、デリケートなアクセルワークを保つだけの準備が欲しい!

なので、

『ガソリンとクルマの狭間で』

と、後で何かに書き留めておこうというのを題名にし、
それをモチベーションとして、
この状況を打破することにした!

前を見る。
坂の距離は、そんなにはない。
少しずつ前には進んでいる。
3歩進んで2.8歩くらい戻ってはいるが、
進んでいるのだ。

①途中、アクセルを踏み込む。
エンジンが悲鳴を上げる→ガソリンがっ!
警告灯がハッキリと点灯し始めてるぞ!
②途中、アクセルを緩める。
下がるときは滑るように滑らか!→表現がおかしいのは気にしない
①と②の繰り返しが、3歩進んで2.8歩戻る内訳となる。

これにより、
「ちょっと登り坂になっている道」を、脱出した!

登り切った所は、一般道から少し外れた道であった。
ひとまず、道路の中心ではない隅にクルマを寄せ、停車する。
俺の後に付けていたクルマも、同様の動きをしていた。


ははあ、そうか。
キミも、轍作戦だったか!
コンド、コントでもやるかい?
そんなことはどうでも良いとして、
時間にしてほんの二分にも満たなかったのであろうが、

何と長く感じたことか!

相棒の計器類を確認する。
ガス欠を示す警告灯は点灯したままで、
「E」マークは見る限り、見たことのない底を付いていた。
「…」
俺は再び、車外に出る。
周囲の状況をまず確認することにした。
そして…
(続く)

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