【とある旅物語・8】

【前回までのあらすじ】
休暇をもらった俺。
しかし、どう過ごせば良いのかが分からず、
遥か昔に訪れたことのある地まで旅に出ることを決める。
途中、相棒である愛車の忠告も聞き入れず、
手にした切符の行き先は、吹雪の一丁目であった。
帰路に着く際、難所が早速待ち受けていた。
そして…

ハザードランプを焚く。
車外に出る際、
後部座席に乗せておいたダミーを運転席に置く。

何のダミーかというと、
「遠目から見ると人が乗っているように見える」
配置のできる、クッションです。

数個重ねて載っけておけば、
ダミー運転手の完成であるのだ!

名前?

それは、ダミ〇ン(←映画ネタにて注)
です。

これは、過去の教訓(詳細はその2を参照)で、防犯のために常時用意しておいたものだ。

この吹雪の中、エンジンを切ってしまうよりも、
つけっぱなしにしておいた方が良いと判断した結果だ。
取り敢えず、ワイパーだけは動かしておかなければ、
また振り出しに戻ってしまう。
エンジンを切ってもワイパーは作動できるが、
そうなると今度はバッテリーが上がってしまう危険がある。

相棒をそのまま無防備に置いていくことには抵抗があったが、
この吹雪の中、
例えどこかの誰かが乗っかってしまったとしても、走行はままならないはずだ。

ツルツルツルツル
が、関の山さ!

そうした根拠に基づき、

待ってろよ、相棒!
留守は任せたぞ、ダ〇ァン!

サンダルにて、吹雪の中を進む。

まだ誰も踏んではいない雪の部分を、ワクワクしながら踏みつける
最初に足跡つけたー
という、心のゆとりなどないぞ。
一歩毎に、サンダルがズレる。
数歩進んだところで、心が折れそうになった。

全身ズブ濡れだが、足元はもっとビチャビチャだ。

「…」

先程より、吹雪の勢いが増している。
一般道まで、ひとまず歩く。


すごい渋滞だ。
進むというより、進めていないクルマが圧倒的だ。
ここに、これから乗っかるのか…
そんなことを思いながら、周囲を見渡す。
視界も通らない中、

お、

何かそれらしきものが見えるぞ、あそこ。
歩行を速め、それらしきものの確認をする。

あったぞ、
ガソリンスタンドの看板が!
営業しているのかどうかを確認する。
電気が点いてるぞ!
店は、開いていた。
良し、この地点まで相棒と来るのが先ずの目標だ。
経路を確認する。

ここまで来るのに、
一般道に入り交差点を一回、
スタンドに入るために一回、
計二回、右折しなくてはならなかった。

距離的には、
相棒を止めてある所から、
200m強、といったところか…

だが、
見る限りに問題なのは、交差点だ。
立ち往生していたり、
道の端に乗り上げていたり、
そんなクルマで溢れている。
信号機は、最早その意味を成していない。
秩序のないカオスな現場が、そこにあるのだ!

相棒の元に近付く。
エンジンは止まっていない。
ワイパーも、ハザードも機能している。

しかし、
なんか、ダミァンが変だぞ。
よくよく見る。


首が、もげているではないか!
いや、頭として載っけておいた、その部分が転がっているだけだった。
きちんと留守を守ってくれていた、ダミァンの魂を感じる。
ありがとうな、ダミァン!
ダミァンを一度解体し、後部座席に置く。
そして、運転席に腰を据える。

一般道まではすぐそこだ。
だが、問題の右折が待っている。
アクセルを踏む。
ゴリョ、と、鈍い音。
そして、前進後退だけではなく、
左右に動くためには難があった。

滑るのだ!                                               かろうじて曲がれるといったところか。
この状態では、
「普段通りに直角に曲がる」
事は、果てしなく高いハードル!
だが、曲がること自体が不可能なわけではない。

「…」

イメージだ。
必要なのは、それだ。

スタンドがある位置は解っている。
あとは、どのようにして
スルスルスルー
っと、行くかなのだ。

必ずしも90度が、曲がる事ではない。
ヘソ曲がりとか、どんな曲がり方をしているのか分からんしね。
俺のヘソはどうなのだろうか。
正答はないのだ。

…」

限りなく直線で曲線に近い、右に流れる走行方法を打ち出す。
…お、これって、二次関数のあのグラフかい?
この場合、
大切なのは、あくまでイメージだ!
Y軸をスタンドに固定する。
200m強の距離をゴールするまでの
イメージが完成した。

相棒の警告灯は、その輝きを強めている。
もう少し待てよ、相棒!
そして、本番発進。
交差点間に向かうまでは近かったが、
右折にはほど遠かった。

いかん。

一旦、アクセルを止める。
信号と曲がるタイミングが、まるでなっちゃいない。
信号機の点灯に合わせて、
限りなく直角に近い曲線で曲がらなければならないのだ。
以上を踏まえ、再び、発進。                                       …滑るよ、だけどそれは完全ではない。
慣性の法則を利用しながら、この交差点をクリアする。
そして、一息つく間もなくスタンドはもう目の前だが
もう一回右折!
ここで、さっきのイメージ!

イメージできる?
って、今誰かに聞かれた気がしたぞ…                                   女王の教室にいたときの先生? (ドラマネタにて注)                                     とにかく二次関数の、あの曲線になりきるのだ!!
それでもって、
無事スタンドにイン!
セルフだった。

相棒に燃料をやる。
すっかり腹ペコになってしまった相棒に、
溢れんばかりのガソリンを入れた。
エンジンを起動。

警告灯はすっかり消えて、さっきの騒ぎは何処へ消し飛んだのやら…
相棒を気に掛ける。
「オマエが準備不足なんだよこの馬鹿野郎」
と、相棒。

…それは認めるさ。
しかし、ドライバーが俺じゃなけりゃ、お前だってコケてたんじゃないか?
俺は、相棒に言った。

「…」
相棒は、何も答えなかった。

「…」
反論すれば、すぐに黙り込みかよ。
まあ、いい。後で何か言ってくるだろうさ、どうせ。
俺は様々な吹雪環境の中で、気持ちが欠けていた。
そして、それはこの後に分かることとなる…
(続く)

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