【とある旅物語・9】

【前回までのあらすじ】
休暇をもらい、やることが分からずに「北の方」に旅に出た俺。
行きは快晴、帰りは吹雪となる。
様々な事がある中、
何も準備せずに出発してしまった事を、相棒(クルマ)に突かれる。
そして…

「…」
ガソリンは満タンだ。
しばらく相棒は保つはずだ。

だが、
相棒との間に、気まずい空気が漂う。
この吹雪の状況、
一心同体でなければ、乗り越えるのは困難。

それが分かっているのに、
俺は、相棒に余計な一言を放ってしまった…

『言葉に気を付けなさい、それはいつか行動になるから』

ある偉人の一節だ。

「…」

しばらく考える。
しかし、いつまでもスタンドに陣取って居る訳にもいかない。
俺は、相棒に乗り込んだ。
気のせいか、シートへの納まりが悪い。
微妙ではあるが、
これまでとは、感覚が違ったのだ。
…俺の余計な一言が原因か?
一旦、相棒から出る。

そして、スタンドのスタッフに
相棒のインチの、冬タイヤは置いてありますか?
と、聞いてみた。

ダメ元ですよ!
ダメ元なんですけどね、聞いてみた。
「ありませんよ」
と、速攻で瞬殺される。
うん。そうですよね。
それについては、期待も絶望もしていなかったからね。
ただ、

あって欲しいーーーー
っていう、願望だけはあったんだけどね!

泡良くば、
スタッフがタイヤについて何処かに聞いてみたりしてくれることで、
スタンドに陣取る時間を稼ごうとしていたのだが、
陣取る理由が、これで無くなってしまった。
出て行くしかないか…

再び相棒のシートに座るが、
やはり納まりが違う。
何だか、凄く嫌な感じがする。

もう少し、駄々コネてみるか?…
と思っていた矢先、
「他のお客さんが入れませんので」
と、サービス業においての、必殺の一言が!
スタッフから放たれてしまった。
これの主語は、「アンタのせいで」っていうのがあります。

「…」

相棒とは気まずいが、俺は再びエンジンをかけ、
スタンドの敷地内から一般道に出ることにする。
だが、道に乗るのも一苦労だ。
この吹雪、積雪のおかげで大渋滞。
しかも、相棒はノーマルタイヤときたもんだ。

タイミングを見計らって道に乗るが、決してスムーズに走行できる訳ではない。
進行車も対向車も足元がおぼつかず、
俺もそうだ。

チョロチョロヨチヨチと少しずつ進んでいく中、
前方に、テールランプで

ぐっ
    ちゃ
ぐちゃ

になっているのが見えた。

「…」

こは、
なだらかーな登り坂になっていて、
しかもそれなりの長さがある。

そういえば、ここに来るとき、
「薄っすらと雪化粧している」
(旅物語・4を参照)
なんて、カッコつけて台詞を吐いて、通ってたトコロだよ!

今、それどうした?
あれ、なんだった?
魂、売っちゃった?

とにかく、来るときとは全く違う変貌を遂げていたのだ!
このまま、突入するのは危険だ。
せいぜい、坂の前半で迷惑をかけることは明白。

周囲を見る。
少し先に、「P」の看板が見えた。
パーキングだ。
なだらかーな登り坂の手前にある。
俺は、一旦その「P」に入ることにした。

そのパーキングは公共施設のもので、
この吹雪のせいなのか、ゲートは開きっぱなしになっていた。
広い敷地だ。
納まりが悪いせいか、相棒のコントロールも更にままならない中、
何もないパーキングに乗り入れる。
そして、なだらかーな登り坂の状況を見てみる。


あれ、良く見るとぶつかってるんじゃないの?
で、進めなくなったりとかで、詰まってるんじゃないの?
さっきから思ってたけど、
クラクションとかスゲー鳴りっぱなしだぞ。

「…」

何か、洒落にならない大事故イメージが脳裏を過ぎった。
パーキングに入り込んだのは正解だったのか、どうか。
そして、この後に待ち受けるものは…
(続く)

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