【前回までのあらすじ】
休暇中、何をしたら良いのか分からずに旅に出た俺。
行った先は北。
そこには深々と降る雪が、やがて銀世界とは呼ぶには程遠い吹雪で荒れた、
真っ白な世界が待ち受けていた。
そこから脱出すべく、相棒であるクルマと共に進む。
そして…
パーキングに入った。
周囲を見渡すと、降り積もった雪で真っ白な世界が広がっていた。
駐車場の敷地内を、何かが通った跡はない。
どこに、何があるのか分からないぞ。
真っ白ではないか。
…
公道を見る。
鳴りやまぬクラクション。
そこかしこで、不自然なテールランプの動き。
これは、今出て行こうものなら大変だ。
しばらく、相棒にこもって考える
が、
分からん!
ここから脱出するための方法が分からない。
ふと、
昔のある教師が頭に浮かんだ。
俺は、先生に聞いてみた。
(質問パターンA)
俺:「先生!この問題分かりません!」
先生:「ダイヤブロックみんなの街!ほーら、ブチかましてバラバラにして良いんだよ。
後で、新しいのが組み立てられるんだからね」
…これでしょうか。
もう一度、聞いてみる。
(質問パターンB) 俺:「先生、この問題分かりません」
先生:「だったら、まず自分で考えなさい」
…うむ、Bだろう。
けどね、
こんなの分かるかい!
何の方程式なんですか、先生!
解が導き出せるんかい!
こんな方程式、習ってませーん!
一人で問答をしながら、相棒の温度計に目をやる。
外気温は
「マイナス5℃」
を示していた。
初めてみたぞ、こんなの。
この表示が出てくるのも驚きだ。
…
何ともなしに、ラジオのスイッチを入れる。
普段のお気に入りチャンネルだ。
で、
聞こえたのは
ピーぎゅるるるるザザザザー…ガリョー
そんな音だった。
うん。知ってるよ。
地域違うから、お気に入りの電波は入らないよ。
これは、そうだよ。
習慣ってやつだよ。
間違ってないから。
使い方知ってるよ。
もう一度、ラジヲを点けなおし、
チューニングする。
地域のFMに合わせる。
「…この大雪は近年まれのものであり、交通には様々な障害が出ている模様…」
途中でラジヲを消した。
ははあ、そうでしたか。
地元の人も、苦戦してるわけですな。
俺がどうにかなる問題ではない。
ここに、釘付けになる可能性も現実味を増してきた。
携帯電話を見る。
バッテリーはそこそこあるが、大事にしたい。
念のため、予定通りに帰れなくなった場合のため、
職場の上司に連絡を入れる。
状況を説明した。
「あ、こっちも雪スゲーよ!誰かスリップしてバスに突っ込んで大変なことになってるから、
キミも動かないほうがいいよ!」
と、返ってきた。嬉しそうにね! …何というか、会話が変だ。
返答に違和感を感じてはいたが、
この状況では、通信は出来てもあまり意味がないことは分かった。
…
暫く相棒の中で考えていると、
あ、
あったじゃん、タイヤチェーン!
積んでたはずだよ!
天啓が舞い降りた。
トランクを開ける。
バコッ、と雪を除けながら、その入り口を覗かせる。
俺はルンルン気分で、ゴチャゴチャになっているトランクの中身を漁る。
…
あれ、この辺になかったか?
普段、整理してないからなー
もう少し奥に埋もれているのかも。
…
掘っても掘っても、見つからない。
トランクの中身を、雪まみれになったそこらに一旦出すが、
ない。
ないぞ、タイヤチェーン!
その後、あきらめつかず漁りまわすものの、
ないものは、ない。
代わりに、スニーカーを見つけた。
車内に戻り、俺はサンダルからスニーカーに履き替えた。
そういえばね、
タイヤチェーンがあったのを見たのって、
何年前だっけ?
使ったの、いつだったっけ?
使って、その後どうしたっけ?
何年何月何日に使いましたー、と、はっきりと答えられない。
遠い昔の出来事を、さも側にあるかのように思っていたというこの錯覚。
しかし、ないものはないのだ。
吹雪がますます強まっていく中、スニーカーを装備した俺は、
次なる行動に出ようとしていた…
(続く)