【とある旅物語・10】

【前回までのあらすじ】
休暇中、何をしたら良いのか分からずに旅に出た俺。
行った先は北。
そこには深々と降る雪が、やがて銀世界とは呼ぶには程遠い吹雪で荒れた、
真っ白な世界が待ち受けていた。
そこから脱出すべく、相棒であるクルマと共に進む。
そして…

パーキングに入った。
周囲を見渡すと、降り積もった雪で真っ白な世界が広がっていた。
駐車場の敷地内を、何かが通った跡はない。
どこに、何があるのか分からないぞ。
真っ白ではないか。


公道を見る。
鳴りやまぬクラクション。
そこかしこで、不自然なテールランプの動き。
これは、今出て行こうものなら大変だ。
しばらく、相棒にこもって考える

が、
分からん!
ここから脱出するための方法が分からない。

ふと、
昔のある教師が頭に浮かんだ。
俺は、先生に聞いてみた。

(質問パターンA)
俺:「先生!この問題分かりません!」
先生:「ダイヤブロックみんなの街!ほーら、ブチかましてバラバラにして良いんだよ。
後で、新しいのが組み立てられるんだからね」
…これでしょうか。
もう一度、聞いてみる。

(質問パターンB)                                          俺:「先生、この問題分かりません」
先生:「だったら、まず自分で考えなさい」

…うむ、Bだろう。

けどね、

こんなの分かるかい!
何の方程式なんですか、先生!
解が導き出せるんかい!
こんな方程式、習ってませーん!

一人で問答をしながら、相棒の温度計に目をやる。
外気温は
「マイナス5℃」
を示していた。
初めてみたぞ、こんなの。
この表示が出てくるのも驚きだ。


何ともなしに、ラジオのスイッチを入れる。
普段のお気に入りチャンネルだ。
で、
聞こえたのは

ピーぎゅるるるるザザザザー…ガリョー

そんな音だった。
うん。知ってるよ。
地域違うから、お気に入りの電波は入らないよ。

これは、そうだよ。
習慣ってやつだよ。
間違ってないから。
使い方知ってるよ。

もう一度、ラジヲを点けなおし、
チューニングする。
地域のFMに合わせる。

「…この大雪は近年まれのものであり、交通には様々な障害が出ている模様…」
途中でラジヲを消した。

ははあ、そうでしたか。
地元の人も、苦戦してるわけですな。
俺がどうにかなる問題ではない。
ここに、釘付けになる可能性も現実味を増してきた。
携帯電話を見る。
バッテリーはそこそこあるが、大事にしたい。

念のため、予定通りに帰れなくなった場合のため、
職場の上司に連絡を入れる。
状況を説明した。

「あ、こっちも雪スゲーよ!誰かスリップしてバスに突っ込んで大変なことになってるから、
キミも動かないほうがいいよ!」
と、返ってきた。嬉しそうにね!                                     …何というか、会話が変だ。
返答に違和感を感じてはいたが、
この状況では、通信は出来てもあまり意味がないことは分かった。


暫く相棒の中で考えていると、

あ、

あったじゃん、タイヤチェーン!
積んでたはずだよ!
天啓が舞い降りた。

トランクを開ける。
バコッ、と雪を除けながら、その入り口を覗かせる。
俺はルンルン気分で、ゴチャゴチャになっているトランクの中身を漁る。


あれ、この辺になかったか?
普段、整理してないからなー
もう少し奥に埋もれているのかも。


掘っても掘っても、見つからない。
トランクの中身を、雪まみれになったそこらに一旦出すが、

ない。
ないぞ、タイヤチェーン!

その後、あきらめつかず漁りまわすものの、

ないものは、ない。
代わりに、スニーカーを見つけた。
車内に戻り、俺はサンダルからスニーカーに履き替えた。

そういえばね、
タイヤチェーンがあったのを見たのって、
何年前だっけ?
使ったの、いつだったっけ?
使って、その後どうしたっけ?

何年何月何日に使いましたー、と、はっきりと答えられない。
遠い昔の出来事を、さも側にあるかのように思っていたというこの錯覚。
しかし、ないものはないのだ。

吹雪がますます強まっていく中、スニーカーを装備した俺は、
次なる行動に出ようとしていた…
(続く)

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