【とある旅物語・11】

【前回までのあらすじ】
北の地に旅に赴いた俺。
帰路に着く際、近年稀にみるという悪天候、大雪に見舞われる。
猛烈な吹雪に対して、相棒であるクルマと共に突破を試みる。
とあるパーキングに入り、タイヤチェーンを積んでいたことを思い出す。
トランクを漁るがそこにはタイヤチェーンの姿形はなかった。
そして…

タイヤチェーンは無かった。
人間の忘却度や思い込みについてあれこれ考えながら、
スニーカーを装備した俺は、三度車外に出る。
聞き込みをして、この辺りにカー用品店がないのかを聞くためだ。

この天候のせいか、開いているお店が確認できたのは先程のスタンドのみだった。
よって、目的の場所を知るために、今は人を探してみるしかない。


相変わらず、凄い吹雪だ。
体感すると、先程よりその勢いを強めているのが良くわかる。

エンジンは掛けっぱなしにして、再びダミー運転手、
『ダミァン』の出番がやってきた。
この広大な駐車場、俺以外に人っ子ひとり居ない。
クルマはまず乗り去られる危険性はないと思うが、

その油断が命取りになるのさ!

今まで、こういった都合の良い希望的観測で、何度失敗したことか!
苦い、過去の失敗の様々!
それは星の数ほどあるさ!
そうしたことは忘れはしないが、
過去は振り返らないのだ!
というか、振り返りたくない過去しかないのだ!
カーナビ付けときゃ良かったかしら、なんて事を少しだけ思ったりもしたけどね
いうわけで、ダミァンをセットする。

「…」

公共施設の駐車場ではあるが、ここは
「公園」
だ。
この天候では、さすがに人は訪れようとは思わないだろう。
しかし、まだ誰もいないと決まったわけではないのだ!
歩を進める。

スニーカーに履き替え、少しは安定したものの、
雪に取られて歩行がままならないのは、ある。
この広大な敷地、どこに進めば良いのか分からないが、
一旦「端っこ」と思われる地点まで進み、
後は「端っこ」に沿って進んでみるという戦法に出る。

進めど進めど、雪また雪。
そして、猛烈な吹雪。

これは、何かの修行なのだろうか…
一体、何のためにこの修行をしなければならないのだろうか…
この修行の先に、何か見えるものがあるのだろうか…

と、思っていたところ、
お、何か見えるぞ、あそこ。
小屋のようだ。

視界が悪く、何の小屋なのかは分からないため、近付いてみる。
あれがトイレだったら、どうしましょう?
公園には、トイレあるよね。

こうした場面、
何故か、トイレを必要としていないときにはトイレが沢山あり、
トイレを必要とするときには、何故かどこにもない。
という、
マーフィーの法則が、この世にはあるのだ。
あれがトイレだったら、立ち直れるんだろうか…
とにかく近付いてみる。

…」

トイレではなかった。
小屋だ。ドアが付いている。
その横に、
「駐車場管理事務所」
と、看板があった。

少し嬉しくなったが、それはまだ早いぞ。
果たして、人がいるのかどうかが問題なのだ。
聞き込みが出来なければ、意味がないのだ!
外からでは、人の気配が伺えない。
ノックをしてみるが、返事はない。

「…」

ドアノブを掴み、回す。
ドアは開いていた。
その先は小さな通路になっており、更に、奥にドアが一つ。
俺の相棒の様に、カギを開けっぱなしにして小屋を置いているだけなのかもしれない。

「…」

誰かいなかったとしても、
ここまで来たのだ。
徹底的に、探索するのだ!
後はそれから考えるのだ!

奥のドアノブを思い切り掴んで、
ノックもせずに思い切り開ける。

そこには、
「△●◇#♨!!」
という、表現できない言葉を口にしながら、
椅子から飛び跳ねる女性の姿が写った。
その制服から、管理会社の人だろう。

そういえば
某国民的マンガに出てくるマス〇さんが
「ドゥェぇェ!」
と、びっくりして飛び跳ねるという例のシーンがあるが、
そのシーンさながらのリアクションだ。

一方俺は、
居たよ、人が!
人が居たんだ!
あまりの嬉しさに舞い上がる。

「なんなんだいアンタ!」

と、当然の事ながらその方に聞かれる
というより、構えられる。
(この管理事務所の方は物語の便宜上、以下「Aさん」とします)

そうですよね
ズブ濡れでいきなり来て
喜んでみたところで
怪しいだけで、物盗りとかその類と思われている線は濃厚だ。
俺が何者なのか説明しなければならない。
俺は、部屋の入り口で経緯を説明する。

Aさんは、疑いの目を緩めることはなかったが、話は聞いてくれた。
それでですね、
「この時期、こんなトコロにノーマルタイヤでやって来る馬鹿がいるか!」
と、叱られてしまいました(*´ω`)
ハィ、その通りなんです。返す言葉はありません。
そして、手短に用件を話す。

聞けば、ここから「なだらかーな登り道」を行って、
そこから少し外れたところにカー用品店があるという。
距離にしてクルマで15分程度とのことだが、それはあくまで通常の天候の場合だ。
この悪天候では、どれくらいかかるのか見込みが付かない。
その店が開いているのかどうか、まず電話をかけてみようとしたが、
あらゆる手を尽くしても電話番号は分からずじまいだった。


行くしかないな、これは。
俺はAさんにお礼を言い、この場を後にしようとしたその時、
「ちょっと待ちな」
と、呼び止められた。
どうやってその店まで向かうのかと聞かれ、歩いていくと答える。

………                                                 暫くの沈黙の後、Aさんが言った。

「アタシゃ、これから帰るところなんだよ。その店は帰り道にあるから、
乗っけて行ってあげるよ。行きだけだけどね」
一瞬、耳を疑った。

何処の馬の骨かも分からん俺に、何故!?
そこまでは本当に申し訳ないと思い、何とかしてみると説明するが、
この吹雪の中、歩いて行けるわけがないと。
店まで着けば、とりあえず後はそこで考えろと。
最悪、店に籠ば良いのだと。

「…」

感謝の言葉もない。
何者なのか、素性も分からない俺に、ここまでしてくれるとは…
改めて、人の温かさを知った。
何度も礼を伝え、Aさんの好意に甘えることとした。

Aさんは事務所の戸締りをしてから、俺の相棒が停めてあるところまで来てくれるとのことで、
俺は先に相棒の元に戻る。

駐車場はいくつかあるようで、Aさんのクルマは別の場所に停めてあるという。
俺は相棒に戻り、
解体するまでもなくダミァンは崩れていたが、
後部座席にダミァンを載せ、車内に乗り込む。

待つこと数分。
雪の中を颯爽と走る、軽自動車がやって来た!
そこに乗っていたのは、管理事務所に居たAさんだ。
相棒から降りる。
そして、
「アンタ、こんなので良くここまで来たねぇ」
と、呆れられてしまったー!
「とにかく乗りな。この状況じゃ時間かかるだろうから、すぐ行くよ」
と。

ここで、少し考える。
相棒の事だ。

これまでは周囲の偵察のため、長時間相棒を放置していくことは想定しておらず、
エンジンを点けっぱなしにしていた。
これから向かうところは、
「通常時で、車で15分」
の場所なのだ!
徒歩にすれば、「通常で45分くらい」はかかるであろう。

この雪道、
行きだけでもどのくらい時間がかかるかは読めず、
しかも帰りはどうなるかすら分からないのだ!

「…」

迷っている時間はない。
長時間のアイドリングも、地球環境に良くはない。
俺は、相棒のエンジンを切った。

瞬間、
ガソリンスタンドでの、
相棒に放った俺の余計な一言、の事が、
なぜか浮かんだ。


胸がザワつく。
何なんだ、これは…

…いや、今は余計なことを考えている場合ではない。
先程気まずかったとしても、
相棒の事を考えていないわけではないのだ。
待ってろよ、相棒!
俺は、Aさんのクルマに乗り込んだ。
そして…
(続く)

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