【とある旅物語・5】

【前回までのあらすじ】
休暇をもらった俺。
しかし、休日をどうす過ごせば良いのか、
どうしたら休むことになるのか、という混乱に混乱を重ね、
挙句の果てに降って湧いてきた「旅に出るんだ!」
という、突拍子もない何かの力に任せ、旅に出る。
それは、遥か昔に訪れたことのある場所、
北の宿であった。
途中、様々気になる事がありながらも、相棒とともに宿に着く。
そして…

「いらっしゃいませ。お疲れ様でございました」
フロントが迎えてくれる。
その昔、来た時と変わらない感覚に包まれる。
朧気ながら、その時を思い出していた。
チェックインを済ませる中、
もう夕食の準備が出来ているとの事だった。
壁に掛けられている時計に目をやると、時刻は午後6時30分になろうとしていた。

相棒のキーをフロントに預け、
夕食、朝食の引換券をもらい、
まずは部屋に案内される。

「お客様、お荷物は…」
「ありませんよ」
すかさず答える。
はい、カバン一つないですよ。


この時、不思議な一瞬の間が出来る。

いやあ、だって唐突に「旅」は出てきたことで、
勢いで電話して
そのまま出てきちゃったから
実は、俺も途中で「あ、用意ないや」
って思ったりしたけど、
一泊だし、
いらないでしょ

荷物がないという説明を、こうするべきだろうか。
しかし、
「かしこまりました」
と、案内する方がすぐに答えてくれた。
笑顔で!

部屋に案内された後、
羽織ってきたダウンジャケットをハンガーにかけ、
さっさと夕食会場に向かう。
会場の入り口にて夕食引換券を渡し、
席に案内してもらう。
「こちらでございます」
と、その席は一人には十分すぎるほどの広さがある、

ボックス席だった。
まずは座る。
そして、すかさず地酒を注文。
広い席に腰掛けながら、
何だか

「とても偉い人」

になった気分、を少し満喫してみる。

平日ではあったが、
夕食会場はバイキング形式で、
それなりに賑わっていた。
とりあえず、広すぎるこのテーブル面積を、
俺は手当たり次第取りまくってきた料理で埋めることにした。

肉、肉、肉。
お、まだスペースあるな。
揚げ物、揚げ物、揚げ物。
まだまだ、テーブルは埋まらない。
魚、魚、さかな~
おっと、何かの歌を口ずさんでしまいそうだった。
テーブルはそれなりに華やかになってきたが、
面積を埋めただけで、何かが足りていない気がする。

「…」

肉、揚げ物、魚。
そうか、緑が足りないんだ!
と、今更ながら気付く。

一回り大きい器に、
これでもかという量の野菜を盛る。
肉を食べたら、野菜はその3倍の量を食べろと教えられている。
テーブルの真ん中に、その器を置く。
良し。
見栄えは完璧だ(←自己中心的なもの)。

俺は酒を一気に呑みほした後、
間髪入れずに料理に手を付け始める。
そういえば、今日は朝から何も食ってはいなかった。
相棒から「腹を膨らませておけ」と言われていたのを他所に、

今。

ガツガツと取ってきた料理を喰い荒らし始める。

美味い。
美味いよ、どれも!
評論家じゃないから、美味い以外は言えないよ!

そんな中、賑やかな周囲に目を向けてみる。
家族連れだったり、
また友人同士だったり、
美味い料理のおかげで会話も弾んでいて、楽しそうだ。
そんな中で、ひとりで大量の料理を喰い散らかしている俺は、
少し目立っていた。

「…」

何か、その期待に応える事をすべきだろうか?
その中には、俺が料理に集中している模様を、
ある家族連れの子供が、注視していることが分かっていた。

目が合った。

俺は、どこの誰かも知れぬその子に、手を振ってみた。

ニッコリしながら!怪しい笑みをね!

しかし、速攻で逸らされてしまう。
もう少し芸をしようと思ったが、
あまりやりすぎると、本当に不審者になりかねない。

…そうさ。
怪しいと思われていたのさ。
知っていたさ。

この挙動、おかしいと思わない方が不思議かもしれない。
ついでに言えば、人物自体がおかしいだろう!
怪しさは元々全開!
ましてや、手を振ったことにより、
その子のお連れからも注目されることになってしまった。
その視線、
決して良い意味のものじゃなーい!
というのは、直ぐに分かった。
再び喰うことに専念する。

少しだけ悔しさに似た感情がどこからともなく芽生えた俺は、
「怪しくてゴメンよ!」
…で、何か?                                                        と、何とも大人げないキレながらの詫びとも、
詫びながらのキレとも取れるメッセージを表現してみる。

そんな中、食事を済ませる。
どの料理も美味しく、全て平らげ十分に腹は満たされた。
(ごちそうさまでした!)

その後浴場に向かい湯船に浸かり、疲れを抜く。

自室に戻り再び一杯やりながら、
窓の外を見る。

深々と降る雪。
暗闇の中、ライトアップされた広場には、
雪一面がその光に映える。
純粋な白さだ。

「…」

その白の景色に、俺の腹黒さ&汚れた心が洗われていく

ような気がした!

そして、俺は床に就いた。
一日の疲れもあってか、直ぐに眠りに落ちる。
で、翌朝。

セットしたモーニングコールよりも、少し早く目が覚める。
カーテンを開け、窓の外を見る。

真っ白。

の表現が一番合っているのかもしれない。

窓から見えたのは
吹雪、で真っ白な空間だった。
それしか見えないし、それしか分からないぞ。
昨夜見てた広場とか、どこ行った?

なにこれ。

テレビを点け、現状を確認する。
「…の地域には、これまでにない大雪が降り、予想される降雪量は…」
状況は分かった。

あ、僕が今居るトコロのコト、言ってるわけですな!
俺は着替えを済ませ、早めに朝食会場へと向かう。

ちらほらと他の宿泊客が集まり始め、ニュースを見ながらざわついているが、
その頃俺は速やかに朝食を済ませ、自室の部屋の片付けをし、
とっととチェックアウトに向かうことにする。

相棒の、昨日の言葉。
「もっと気に留めろ!」
を、今になって留めてみる。
が、
遅い、ってか!
そして…
(続く)

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