【前回までのあらすじ】
休暇をもらった俺。
しかし、休日をどうす過ごせば良いのか、
どうしたら休むことになるのか、という混乱に混乱を重ね、
挙句の果てに降って湧いてきた「旅に出るんだ!」
という、突拍子もない何かの力に任せ、旅に出る。
それは、遥か昔に訪れたことのある場所、
北の宿であった。
途中、様々気になる事がありながらも、相棒とともに宿に着く。
そして…
「いらっしゃいませ。お疲れ様でございました」
フロントが迎えてくれる。
その昔、来た時と変わらない感覚に包まれる。
朧気ながら、その時を思い出していた。
チェックインを済ませる中、
もう夕食の準備が出来ているとの事だった。
壁に掛けられている時計に目をやると、時刻は午後6時30分になろうとしていた。
相棒のキーをフロントに預け、
夕食、朝食の引換券をもらい、
まずは部屋に案内される。
「お客様、お荷物は…」
「ありませんよ」
すかさず答える。
はい、カバン一つないですよ。
…
この時、不思議な一瞬の間が出来る。
いやあ、だって唐突に「旅」は出てきたことで、
勢いで電話して
そのまま出てきちゃったから
実は、俺も途中で「あ、用意ないや」
って思ったりしたけど、
一泊だし、
いらないでしょ
↑
荷物がないという説明を、こうするべきだろうか。
しかし、
「かしこまりました」
と、案内する方がすぐに答えてくれた。
笑顔で!
部屋に案内された後、
羽織ってきたダウンジャケットをハンガーにかけ、
さっさと夕食会場に向かう。
会場の入り口にて夕食引換券を渡し、
席に案内してもらう。
「こちらでございます」
と、その席は一人には十分すぎるほどの広さがある、
ボックス席だった。
まずは座る。
そして、すかさず地酒を注文。
広い席に腰掛けながら、
何だか
「とても偉い人」
になった気分、を少し満喫してみる。
平日ではあったが、
夕食会場はバイキング形式で、
それなりに賑わっていた。
とりあえず、広すぎるこのテーブル面積を、
俺は手当たり次第取りまくってきた料理で埋めることにした。
肉、肉、肉。
お、まだスペースあるな。
揚げ物、揚げ物、揚げ物。
まだまだ、テーブルは埋まらない。
魚、魚、さかな~
おっと、何かの歌を口ずさんでしまいそうだった。
テーブルはそれなりに華やかになってきたが、
面積を埋めただけで、何かが足りていない気がする。
「…」
肉、揚げ物、魚。
そうか、緑が足りないんだ!
と、今更ながら気付く。
一回り大きい器に、
これでもかという量の野菜を盛る。
肉を食べたら、野菜はその3倍の量を食べろと教えられている。
テーブルの真ん中に、その器を置く。
良し。
見栄えは完璧だ(←自己中心的なもの)。
俺は酒を一気に呑みほした後、
間髪入れずに料理に手を付け始める。
そういえば、今日は朝から何も食ってはいなかった。
相棒から「腹を膨らませておけ」と言われていたのを他所に、
今。
ガツガツと取ってきた料理を喰い荒らし始める。
美味い。
美味いよ、どれも!
評論家じゃないから、美味い以外は言えないよ!
そんな中、賑やかな周囲に目を向けてみる。
家族連れだったり、
また友人同士だったり、
美味い料理のおかげで会話も弾んでいて、楽しそうだ。
そんな中で、ひとりで大量の料理を喰い散らかしている俺は、
少し目立っていた。
「…」
何か、その期待に応える事をすべきだろうか?
その中には、俺が料理に集中している模様を、
ある家族連れの子供が、注視していることが分かっていた。
目が合った。
俺は、どこの誰かも知れぬその子に、手を振ってみた。
ニッコリしながら!怪しい笑みをね!
しかし、速攻で逸らされてしまう。
もう少し芸をしようと思ったが、
あまりやりすぎると、本当に不審者になりかねない。
…そうさ。
怪しいと思われていたのさ。
知っていたさ。
この挙動、おかしいと思わない方が不思議かもしれない。
ついでに言えば、人物自体がおかしいだろう!
怪しさは元々全開!
ましてや、手を振ったことにより、
その子のお連れからも注目されることになってしまった。
その視線、
決して良い意味のものじゃなーい!
というのは、直ぐに分かった。
再び喰うことに専念する。
少しだけ悔しさに似た感情がどこからともなく芽生えた俺は、
「怪しくてゴメンよ!」
…で、何か? と、何とも大人げないキレながらの詫びとも、
詫びながらのキレとも取れるメッセージを表現してみる。
そんな中、食事を済ませる。
どの料理も美味しく、全て平らげ十分に腹は満たされた。
(ごちそうさまでした!)
その後浴場に向かい湯船に浸かり、疲れを抜く。
自室に戻り再び一杯やりながら、
窓の外を見る。
深々と降る雪。
暗闇の中、ライトアップされた広場には、
雪一面がその光に映える。
純粋な白さだ。
「…」
その白の景色に、俺の腹黒さ&汚れた心が洗われていく
ような気がした!
そして、俺は床に就いた。
一日の疲れもあってか、直ぐに眠りに落ちる。
で、翌朝。
セットしたモーニングコールよりも、少し早く目が覚める。
カーテンを開け、窓の外を見る。
真っ白。
この表現が一番合っているのかもしれない。
窓から見えたのは
吹雪、で真っ白な空間だった。
それしか見えないし、それしか分からないぞ。
昨夜見てた広場とか、どこ行った?
なにこれ。
テレビを点け、現状を確認する。
「…の地域には、これまでにない大雪が降り、予想される降雪量は…」
状況は分かった。
あ、僕が今居るトコロのコト、言ってるわけですな!
俺は着替えを済ませ、早めに朝食会場へと向かう。
ちらほらと他の宿泊客が集まり始め、ニュースを見ながらざわついているが、
その頃俺は速やかに朝食を済ませ、自室の部屋の片付けをし、
とっととチェックアウトに向かうことにする。
相棒の、昨日の言葉。
「もっと気に留めろ!」
を、今になって留めてみる。
が、
遅い、ってか!
そして…
(続く)
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