【前回までのあらすじ】
数日の休暇をもらった俺。
しかし、どうしたら良いのか分からずに悶々と悩んでいたところ、
「旅に出るんだ、俺!」
と、突拍子もない考えにたどり着く。
出発の時点から暗雲が立ち込める中、旅への準備を進めた…
準備は整った。
相棒の調子も変わらない
…ように見える。
ホントに変わってない?
ちょっとだけ、聞きたくなる。
「…」
愚問だ。こんなのは。
何時だって、何だって、一緒に乗り越えてきた。
どんなことがあっても。
一蓮托生なんだ。
ふと、昔の出来事を思い出す。
今の相棒は、二代目だ。
初代の相棒は、俺の無茶苦茶な走りに悲鳴を上げながらも、
滅茶苦茶に付いてきてくれた。
こんな、俺に。
その最期は、ある国道で
「プスン」
と、エンジンが止まり息絶えてしまった。
走行距離やクルマの年式を考えれば、当たり前だった。
ただの鉄の塊と化してしまった相棒を、俺はドックまで連れ押した。
その距離、何㌔かは知らないが、数時間押し運ぶ。
ドックに着く頃には、もう深夜だった。当然、閉店時間だ。
さらに、そこから相棒の基地へと収納し、
メカニックが開店した直後に連絡を入れた。
そこで、メカニックが出張してくる。
相棒を診る。
そして。
「残念ですが…」
と。
手の施しようがない状態を通り越し、
「お前はもう〇んでいる」
という状態だった。
空を見上げると、日中だというのに、
北斗〇星が見えた(気がしただけ)。
「…」
分かってたよ、解ってたよ、俺だって。
何時か、こんな日が来ることを…
だけど、本当にこんな日がやって来るなんて。
信じたくなかった自分と、受け入れなくてはいけない自分。
この後、やることは分かっている。
粛々と、初代相棒の始末をつけなくてはならない。
しかし、つけたくない!
様々な思いが、一気に溢れ出す。
…波のように気持ちが揺さぶられる中、それでも時が無情に流れる。
俺は初代相棒を見送った。
最後は、俺が幾つかのパーツを引き抜く。
そんな、大往生を遂げた初代相棒の魂が籠ったのが、
今の俺の相棒だ。
この二代目だが、最初はしっくりこなかった。
運転が思い通りになるのだ!
これが時代の進化?
すごすぎるよ、これ。
思い通りに走りすぎる。
正直なところ、表現すればあまり一体感がなかったのだ。
自分が何もしていない感…それが、不思議だった。
そんな二代目に、初代の魂を盛り込んでみた。
引き抜いたパーツを、組み込んだのだ。
しかし、その直後に事件が起こる。
なんと、二代目がクルマ荒らしに遭ってしまったのだ!
二代目には盗難防犯装置がついていたのだが、
それが作動しないように、
リアガラスをブチ割られ、そこから車内に侵入され、
初代から積み込んだパーツを、
全てぶち抜かれてしまった!
なにこれ。
駆け付けたお巡りさんによれば、防犯装置を作動させない常套手口だという。
更に、指紋をポンポンと取りながら、
「こういったの、見つからないですよ。犯人」
という、三ツ星の回答が!
ミシュ〇ンだったら最高だが、TPOが違ーう!
最初は事態を把握することが出来なかったが、ようやくそれ(荒らし)に遭遇したという事が飲み込めた。
そこから、俺は相棒に関して最低限の装備、最高峰の手入れを施すことにする。
結果、初代を超える信頼関係が生まれたのだ。
そんな相棒を、信用していないような発言をしようとした俺。
馬鹿げている。
俺は相棒に詫びを入れた。
「気にすんなよ、この馬鹿野郎」
と、相棒が俺に言う。
(註:相棒の言葉については、前回の話を参照)
ありがとうな、相棒。
では、気を取り直して出発!
…人は、北に行くか、南に行くかでその時の自身の状態が分かるという。
そんな話を聞いたことがある。
俺が向かったのは、北であった…
(続く)
コメント