【とある旅物語・2】

【前回までのあらすじ】
仕事の最中、上司から休暇を言い渡された俺。
しかし、「どうやったら休むことになるんだ」という、訳の分からない問答に陥る。
そして、(何でもない)旅に出ることを決めた。
それから…

良し。
決めてしまったぞ、宿。
到着時刻まで伝えたしね。
もう後戻りは出来ない。

ここで引き下がれば、キャンセル料100%。
行っても、100%。
しかし、今日中に行けるんだろうか、そこに…
良く分からない、何処かへの片道切符を手にした感覚だ。                          

しかし、行っても行かなくても、そこまでの駄賃は変わらない。

「…」

いや、行けるよ。
だって、伝えたのは「根拠のある予定到着時間」だしね。
高速道路を法定速度で順調に行けば、今から数時間で到着する。
何より俺には、色々な困難を共に乗り越えてきた「相棒」がいる。

この愛車が!                                               どこだって行けるよ!水の中とか無理だけどね。

戸締りを完璧にし、俺は相棒に乗り込む。
エンジンをかける。
「キュゥルゥ…ウォォォ、ン」
エンジンがかかったが、何か変な気がした。

「ウォォォ、ン」の、
「ォ」の後の、テンが気になった。
譜面でいえば、16分休符か…
いや、俺の気にし過ぎだろう。
ナーバスになっているだけさ。きっとそうさ。

シートベルトを締めて、アクセルを踏む。
いつもと変わらない。
けど、さっきの「ウォォォ、ン」が…

お腹痛いの?

愛車に聞いてみるが、何でもないようだ。
…いや、待てよ。

計器類を確認すると、ガソリンが底を付きかけていた。

そうか、そうだったかー
ゴメンよー
シートベルトを締めた後、俺は相棒の腹を膨らませるべく、
とあるガソリンスタンドに向かう。セルフだ。

給油口にノズルを入れようとしたその時、
「バチィ」
と、衝撃が走った。

静電気だ。

馬鹿な。静電気防止シートに触れ、安全マニュアル通りにしているはずだ。
今までの幾何年、こんな事なかったぞ。
これは、下手すりゃ大事じゃ済まないよ。
「バチィ」だけで済んだものの、どうして今?
今までなかったことが、何故だ!
どうしてなんだー!
…と、心の中で叫びながら、回答の返らない何かに回答を求める。

「…」

俺は、もう一度静電気を逃がし、給油にトライする。
慎重に、ノズルのトリガーを引く。
何もない。順調だ。
何だったんだろうか。
そして、相棒が俺に語りかけてきた(気がしているだけ)。
「お前も、腹膨らませておけよ」


いや、いいんだ。食欲が無いんだ。
俺は、相棒に返す。
(註:今後の相棒とのやりとり表示は、「気がしているだけ」を省略しております)
相棒の腹を満たした後、念のためスタンドのピットを借りて、ボディチェックを行う。

異常はない。走行に問題は無いはずだ。
そして、俺は再び相棒に乗り込み、目的地へと向かう。
これがまさか、ふと感じた「何処かへの片道切符」になることも知らずに…
(続く)

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