【とある旅物語・24】

・前回までのあらすじ
雪降る地方へと旅に立った俺。
そこで、帰る際に様々な問題が起きる。
夕食を摂った後、帰路をどうするかについて悩むのであった…

「…」
口腔の痛みで集中できない。
考えることは分かっているのだが、痛みが集中を途切れさせる。
こうして、あっという間に残りの5分が過ぎた。
制限時間のあるPCから離れる。フロントに、その旨を伝えた。

フロント:「これで終了となりますが」
俺:「そうですか…」
と、返事でワンクッション置いた後、
俺:「1回、15分だからもう少し後に使えるんですよね」
ここで、またダメ元作戦を行使する。

一人、15分じゃないよね
1回、15分だよね
だから、15分で一度区切りを付ければ良いですよね
という、人を困らせる「~よね」の繰り返しによる、単純な言い方

これで、どうでしょうかー!!

フロント:「…他に利用するお客様がいなければ、どうぞご使用ください」
俺:「ありがとうございます」


おお!
言ってみるもんだ。

だが、これでウザい客としての印象が少しばかりアップしてしまったようだ。
次の使用で切り上げないと、更に心証を悪くすることは避けられない。
再度PCを使用する前に、相棒の様子を確認に行く。
少しインターバルを挟んだ方が、このタイミングでは宿的にも俺的にも良いと思ったのが理由の一つだ。
相棒が格納されている駐車場へ向かう。
この時、そこには番人のお兄チャンが居た。
お兄チャン:「あ、お出掛けですか?」
俺:「いや、クルマの確認をしたいのだけれども」
お兄チャン:「はい、少しお待ちいただけますか」

このパーキングはターミナル式で、ぐるぐると車両を降ろしたり前後に入れ替えたりするものだ。
それなりの待機はしなければならない。
お兄チャンは手慣れた操作で、壁に設置してある装置を動かした。
相棒が来るまでの間、ベンチに座り待つ。
灰皿があった。
一服つける。

そして、お兄チャンも隣に腰かけた。

お兄チャン:「大都会から来たんですか?」
俺:「いや」
お兄チャン:「クルマ、大都会ナンバーじゃないですか」
決してそんなことはないのであるが、
こんなことを言ってくれるあたり…やはり、このお兄チャンは好感度バツグンだ。
更に、お兄チャンが話を続ける。

お兄チャン:「このナンバーがあるとこに行きたいんです、俺」
俺:「…」

理由は、訊かなかった。
続けて、お兄チャンが話す。

お兄チャン:「俺、大都会に憧れて家を出たんです」
お兄チャンの話を聞く。
その間、ターミナルはゴロンゴロンと無機質な音を立てて回る。
お兄チャン:「親は反対したんすけど、オバさんが心配してくれていて」
俺:「…」
お兄チャン:「オバさん連絡してくれたりしたんですけど、俺がこんなところでやってるなんて話せなくて」

ん?

その話、ちょっと待てよ…
昼間に助けてもらったAさんが浮かぶ。

相棒が来るまでの間、お兄チャンの話に付き合う。
その身の上話、どうしてもAさんと重なる。
そして、相棒が降りて来た。

俺:「…ちょっと、中から出したいものがあって」

と、

話途中のお兄チャンには申し訳ないが、相棒に乗り込んだ。
相棒の様子確認をしようと思っていただけだが、
ここで相棒の中身をチェックした後、
そこら辺にあるCDを拾い漁る。

「…」

何の曲をコピーしたのか分からない、ラベルのないCDが数枚ある。
車上荒らしにあった時から、俺はこういう管理をしなくなっていた。
盗られたら、全部パーですから!
その時のショックは計り知れないんだぜ?
だから、そんなものを捨て生きる事数年。

CDも
デッキがなけりゃ
円盤よ

その当時に詠んだものだ。
部屋にはオーディオプレーヤーがあったので、相棒にあるCDから適当に拾って、音楽でも聴こうと思っていた。
そして、中身が何だか分からなくなっているCDを数枚集める。
相棒の状態確認と数枚のCDを取り出し、用事が済んだ事をお兄チャンに伝える。
お兄チャンは再び壁に設置された装置を操作し、相棒は格納されていった。

「…」

屋内に戻る前に、俺はお兄チャンに訊いた。

俺:「どうして都会を目指すの」
お兄チャンが俯く。
パーキングのモーター音だけが響く。
お兄チャン:「一流になりたいんです」
と。

何か、解った気がした。

何の一流なのかは分からないが、解った気がしたのだ。
今日はもう仕事が上がりなのかを訊くと、休憩を挟んで明日の昼まで当番だとのこと。
俺:「明日出る時によろしく」
で、
俺:「そういえば○○公園の駐車場、気分転換にでも行ってみると良いかもね」
と、お兄チャンにここでも余計な一言を言ってしまう。

だって、しょうがないじゃない。

オバさんの話とか、どっかで聞いた話なんだし、それがAさんだったら…
間違ってたら、それはそれで問題ないんだし、
合ってたら合ってたで、それはそれで問題ないでしょ。
そうして、俺は相棒から取り出した数枚のCDを手に、再び共用PCへと向かう。
もう一度、帰路を確認する。

「…」

海側か、山側か。
ルートを決める。

そして後、確認することは決まった。
そうしたことで、自室に戻り適当にCDを再生する。

♪いつかわすれていいったーとんだジタンのからばこー
ひねりすてーるだけーでー○○…


飛んでイスタンブールには来てない。
が、悪くはないかな。
さて、明日に備えて身体の調子だけでも整えておかなければならない。
一通りCDを聴いた後、床に就く。
そして…
(続く)

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