【とある旅物語・23】

・前回までのあらすじ
雪景色となることを知らず、その地方に旅に出た俺。
帰路に着く際に、様々なことは起こった。
崖っぷち状態になりながらも相棒と共に避難できるパーキングにINし、そこに直結している宿に到着したのであった。
そこで、好感度抜群のお兄チャンとの出逢い、また天候の不安もありこの宿で一泊することにした。
そして…

購入した衣服に着替えた。
さてと…

夕食のため外に出る前に、再度顔を洗う。
雪国ということもあるのか、普段とは全く違った冷感が顔面を襲った。
そして、先程顔を洗った時とは違う痛みが、口腔内に走る。

冷えた水が染みる。
がいをして、洗面台に吐き出す。

真っ赤だった。
何かの紅いカクテル…のように見えないこともないと、気にしないようにしてみるがそこまで思い込むのは無理だった。

だって、痛いんですもの…クスン

どこをどう切ったのか鏡で確認しようとするが、どのアングルから見ても口腔内のどこを切ったのかの確認は難しかった。
水を含んだだけでこれだけヒリヒリとするのだから、飯を喰うのは相当苦戦するだろう。

「…」

激辛料理を喰ってるようなものだと思うことにして、解決する。
ということで、夕食は少し辛いものも考慮する。

明日からの献立はどうしようかなぁ
と、食費を抑えるメニューを考えながら、
過去にこの地に来た際に訪れた、ある飲食店の場所を何気なく確認していた。
そのお店の名称だけは、忘れずにいる。

一通り、考え事に区切りをつけて、
身なりを整え、外に出るためにもう一度フロントへ向かった。

フロント:「外出されますか?」
俺:「はい」
再度ルームキーをフロントに預け、正面入り口から外に出る。
ロビーには、PCが二台あった。
その先は、直ぐアーケードに繋がっていた。
人通りはそれなりに多く、ここでは特殊な歩法を必要としないようだ。

「…」

身なりを整えてリフレッシュしたせいか、冷たい空気がとても新鮮だ。
吐く息は白く、冷え切っているのが分かる。
暫くその場から、周囲を見渡した。


遥か昔、この道を通った記憶がおぼろげながら甦る。
風景に、当時の面影がそこかしこに残っていた。
霞掛かったその記憶を頼りに、目的の飲食店を目指す。

確か、この辺の路地を入って、
…あ、違った。

これ、この辺の路地を入って、
…あ、違った。

ここ!この辺の路地を入って、
…あ、違った。


このようなことを繰り返すこと数回、今までより記憶と合致する印象の路地を発見する。

…ここだ。ここに違いない。
ここを少し進んだ先に、その店はあるはずだ。
時は経っているが、変わらずに在ることを信じる。
だが、ちょっと待てよ。
昼間、タイヤチェーンの記憶違い事件があったばかりだ。
自分の記憶は当てにはならない!

「…」

とりあえず、その路地に入る。
アーケードから少し外れたその道には、様々な飲食店が並んでいる。
確か、この辺に…

あった!
看板を確認する。点灯していた。
間違いない!
ウキウキワクワクしながら、入店する。
だが、これが一気に意気消沈へと変わる。

店員さん:「すみません。本日はもう閉店で…」

なんやてー!?

店員さん:「本日の天候の影響もありまして、申し訳ありません」
俺:「そうですか、また立ち寄らせてください」
店員さんは、俺が見えなくなるまで丁寧に見送ってくれた。

………
……


ガッデム!!
(↑やり場のない気持ちを吐き出しております)

ふと、時計を見る。
時刻は、20時30分を少し過ぎていた。
宿を出たのが、19時少し前だった。
それから、お店を探すのに時間を掛けすぎてしまったようだ。
また、本日のような天候であれば、誰にとっても、思いもよらない出来事があっておかしくはない。

「…」

俺は、宿に向けて歩き始めた。
今夜は、このまま寝てしまおうか…と思ったりもしたが、
「初心忘れるべからずだこの馬鹿野郎」
と、相棒の声が聴こえた。

そうだ。

明日に備え、何か喰うために外に出たのだ。
このお店で食事を摂る事は出来なかったが、何かを喰うという目的を否定することにはならない。
おそらくこの時間、そして先程の店員さんのお話からすれば、小道に入ったお店はそろそろ閉店となるところが増えるかもしれない。
その為、宿までのアーケードにあるどこかの飲食店に入ることにした。
「…」
こうして見ると、この時刻でも開いているお店が沢山あった。
その中の一つに入った。
全国展開チェーンの、あるお店だ。
そこでは、すんなりと入店出来て席に案内された。
注文した料理が来るまでの間、お冷に口をつける。


口腔内がしみる。
辛い物を食べればごまかせると思い込んでいたが、これは食欲を減衰させる痛みだ。
テーブルを見ると、Tabasco、七味、ラー油、他、色々置いてあった。
「…」
料理が来たら、こいつも使わせてもらおう。
ちまちまと水を飲みながら口腔内の環境を整えていると、
隣席に座っていた二人組のお嬢さんの会話が聞こえた。

あ、盗み聞きじゃないですよ!
聞こえちゃってるだけですよ!

宿を出る前に着替えを済ませたので、不審人物には見えないであろうが…

で、
女性A:「…明日も天気悪いんだって」
女性B:「そうみたいね。予報では午後から今日みたいになるって…」
女性A:「車使う?」
女性B:「うーん、迷ってる…」
というような会話が聞こえた。
そして間もなく、注文した料理がやってきた。


激辛カルビクッパ。

ふぅ…

一口で痛みに襲われることを思うと、なかなか手が付けられなかった。
だが、今は目的を完遂する事だけを考えるのだ。
先程確認した、辛さを増すためのエッセンスをふりかけ、
料理に手を付ける。

「♨△〇■(゚Д゚;)」

口に当てただけで、悶絶しそうになった。
だが、これを基準のMaxとすれば行ける痛みだ。                              

無心になるのだ。                                        !!!!!!!!!!」                                               ビックリマーク10個分の無心状態になり、一気に喰い漁った。                        辛味とは、味覚ではなく痛覚です。                                    これを食しているとき、こんなことしか思っていなかったかも知れない。
そんな事もあり、かなり早く食べ終えることができた。
今後はきちんと味わいながら食べたい…

レジにて会計を済ませ、宿へと向かう。
この店舗から宿へは徒歩200歩程度、すぐに到着した。
フロントより、ルームキーを渡してもらう。

ここで、出発前より気になっていたもの…
ロビーに設置されている、PCを利用することにした。
明日の天候を調べるためだ。

断片的ながら、幸運なことに俺はヒントとなるキーワードを、この外出の際に受け取っていた。
最初のお店に向かった時の、
店員さん:『本日の天候の影響も…』
これは、本日のような天候が明日もあれば、それに左右される可能性があることを考えなくてはならない。
夕食の際、最終的に立ち寄った飲食店での、
女性A『明日も天気悪いんだって』
女性B『予報では午後から今日みたいになるって…』
この会話は、この土地にお住まいの方のものだ。
「どうしよう」とお互いに尋ねている内容であり、具体的に明日どうするかは見通しがついていないと推測される。
よって、
この土地に詳しい方でも、今回の天候は読めず、明日にならなければ分からないことを示唆しているということだ。

フロントに、PCの使用許可をとる。
フロント:「かしこまりました。一回、15分までとなっておりますのでご了承ください」
俺は了承して、ロビーにある一台のPCに向かう。
調べることは…

①天気予報
②帰路の選択

15分の中で、これは可能であろう。
まず、②の帰路に着いて調べる。
これについては2つ。内陸部である山側を通るか、沿岸部である海側を通るか、だ。
ここに来る際には、山側を通ってきた。いくつかの乗り換え箇所はあるものの、それを楽しめれば問題はない。
往路の際は、そうだったからだ。
そして、もう一つのルートである海側。
こちらはほぼ一直線で行けるルートだが、混雑する箇所が存在する。それを考慮しても、山側を選択した場合と時間的なものは誤差の範囲内だ。
次に、①の天気予報にアクセスする。
雪雲レーダーによれば、現時点では現在地より離れた場所にある。
②でいう、山側だ。
時間による予報を限界まで見てみると、明日の正午辺りには俺の今居る、現在地に重なる。
もう少しよく見てみると、
レーダーの数時間後の予測値はこの現在地、そして海側の道路までスッポリと覆ってしまっているではないか。
「…」
考える。

A:海側ルートを選択した場合
出発を午前〇〇とすれば、ある地点までは雪雲はなく問題なく行けるようだ。
だが、予報からすると、そこに到着した時点で雪雲がある。
しかし、最初からチェーンを外した高速走行が出来るため、その地点を雪雲が覆う前に通過すれば、それは回避できる。

B:山側ルートを選択した場合
出発を午前〇〇とすれば、ある地点で雪雲の最中にいる状態となる。
だが、予報からすると、その後に雪雲は海側へと移動していく。
しかし、それまではチェーンを履いているため高速走行は出来ない。

Aを選択した場合、チェーンをこの宿から外して走ることができる。
そして、雪雲が差し掛かる前にその危険地帯から走り抜けることも可能、かもしれない。
Bを選択した場合、途中雪が降ることが分かっているため、チェーンを履いたままの長時間走行が考えられる。

「…」

少し早めに出発して、Aルート。
これが、我が家に早くたどり着くため、また一番負担が少ない方法と思うかもしれない。

が、

俺の調べている、この情報。

みんなも調べているものだ!
みんな、知っているのだ!
その為、同じようなことを考えるわけだ。

結果、Aを選択すると、この情報を得ている人々が集中し、どこかで渋滞が起こり、
本日と変わらない状況が起こる可能性が高い。様々なリスクは同等か、それ以上かもしれない。
一方、Bルートは山道だ。最初は手間取るが、その後のリスクは軽減される予測が立つ。            雪雲がその地点にないからと言って、それで先が走れることにはならないのだ…
アイスバーンの堅牢さを、先程味わったばかりだし。

…」

時刻を確認する。
…あと、5分はPC使えるようだ。

海側か、山側か。
どちらにも決めかねて、時間だけが過ぎていく…。
(続く)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次