・前回までのあらすじ
旅に出た先は雪。
帰路に四苦八苦する中、雪道を走破する手段を得た相棒と俺は、市街地へと向けて出発する。
しかし、途中お互いの燃料タンク問題が発生する。
相棒のタンクはEmptyに近付き、俺のタンクはFullへと迫っていた。
そして…
先に全く進まない。
『△×市街3㌔』
あの標識に間違いなければ、地図的にはもう市街地の外枠くらいには入っているはずだ。
そうと判断できる根拠は、
①この二車線道路の出現
②幹線沿いにポツリポツリと見え始めたお店
上記の①、②より、
よって
∴もう市街地でしょ
という、とても自分に都合の良い状況解釈によるものだ。
が、
この式が、無茶苦茶なのは解ってます。
解ってますが、とにかく、TOILETにだけ行きたいの!
こんな風に考えちゃうくらい、切羽詰まってるの!
アイウォンチューW・C!!
アイニージュー、W・C!!
ヘルプミーーー、W・C!!
最早、会話として成立しない文言で、
自分を制御する。
これで、海外に行けそうな気がしたのは気のせいだろう。
しかし、
クルマだらけでコンパクトにまとまってしまっているこの道路、
先の交通事情のために各々が動けぬという、何ともがんじがらめなこの状況!
まるで、箱詰めされた高価な饅頭のようだ!
その為、簡単に相棒からは離れられなかった。
【図解】
ーーーーーーーーーーーーーーーー
※上空から見た現在地付近の道路図※
(↑走行方向:上り)
店┃車¦車┃■中■┃車¦車┃店
┃車¦車┃■央■┃ ¦ ┃店
店┃車¦俺┃■分■┃車¦車┃店
┃車¦車┃■離■┃ ¦ ┃店
店┃車¦車┃■帯■┃車¦車┃店
(走行方向:下り↓)
註:図は、下記の略にて文字で状況を表しています
┃・路肩
¦・白線
■・中央分離帯
車・クルマ
店・大型の量販店など
空欄・車間がある部分
俺・相棒とオレ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…」
この状況を打開するには…
時間を、決めよう
コレだ。
例えば、
カップラーメンは、食べるまでにはお湯を入れて3分待つ。
何故なら、そういう風にして食べるものだからだ。
モノによっては5分の場合もある。
麺カタが良いとか、そうした食感の好みなどある場合でも、それに近い時間まで待つのではないだろうか。
それは、通常食せる目安はそうなっているから、だ。
時間が決められているから、待てるのだ。
腹が減っていても、多少フライングがあっても、待てるのだ。
3分と決まっているから!
3分と分かっているから!
2分半でも大丈夫だから!
「…」
今後、カップラーメンの定義については検討することとした。
相棒のタンクは、まだ保つ。
本日の出来事からすれば、
そうだ。
そして、俺のタンクは…
本日の出来事からすれば、
出発後は用を足していないのだ。
かなり時間は経過している!
…
よし。
あと、5分だ。
少々長めの、カップラーメンだ。
あと5分、何とか耐えて、どこかのW・Cに駆け込むのだ。
この作戦で行こう。
俺は、思考を「カップラーメンを食べるまであと5分待つ」状態にセットする。
で、
5分過ぎたら、どうなるか。
カップラーメンに置き換えれば、麺がのびますな。
それは、食べごろかい?
多少のフライングはあっても良いが、遅れるというのは…
そういうことですな!
5分待つ間に唐揚げをつまみ喰いし、
つまみ喰っている間に5分を失念し、
30分放置してしまった頃に気付いた時の、
置き去りにしてしまったカップラーメン。
苦い過去が甦る。
あの感覚を忘れはしない。
…と、感傷に浸る。
現実は崖っぷち状態であることも忘れてはならない。
自問自答は終了した。
現在は二車線道路の、右車線に居る。
そこら辺に停めようとしても、まずは左車線に入らなくてはならない。
しかし、
入れない!
後続車が、一部の隙もなく張り付いている!
前のクルマが進めば、
ZERO距離を保ちながら、後からどんどん後続車が吸い付いている状態だ。
これは、先に述べた
※上空から見た現在地付近の道路図※
からも明白である。
「…」
何故か、掃除機が欲しくなった。
吸引力が強力なやつ。
その車間距離の詰め方…
何が違うかって?
吸引力だよ!
と、関係ないことに毒を吐き散らかす俺。
みっともないったらありゃしない馬鹿野郎
と、相棒の声が聴こえた。
……
…
ゴメンよ、相棒。
とにかく横から入れないし、幅に寄せられない。
反対車線のそこら辺に、とある大型衣料品店の看板がちらほら見える。
と同時に、自分の居る車線も少しずつ進み始める。
…もう、1分くらい経ったぞ。
相棒の時計を確認する余裕もなかった。
そして、
転回出来る中央分離帯の切れ目
を、少し先に見る事が出来た。
事故処理はその先で起こっているらしいため、
その手前にあるそこで反対車線に転回すれば、先程位置を記憶した向こう側の衣料品店に入ることが出来る。
タンクのリミットが迫る中、俺はその順路をイメージした。
だが、引っかかることがあった。
何か、重大な欠陥があるようだ…
途中でこの「イメージ」ができなくなる。
イメージできなくなることは、あまり宜しくないらしい… 女〇の教室の、マヤ先生が言ってなかったっけ?
そして、それを無視するかどうか、判断に迷いが生じる。
相棒の燃料タンクに目をやる。
1/3は残っている。
直接、走行にダメージは無いだろう。
相棒に何か聞いてみるが、何も返ってこないから良しとしよう。
一方、俺のタンクはもう限界だ。
とにかく、一刻も早くレストルームへ!
よって、先に見えた転回場所で反転し、衣料品店のトイレを借りる事を優先する。
非常にゆっくりと前進する中、目的の場所が迫ってくる。
もう、2分くらい過ぎたぞ。
転回場所が近づく。
後、数メートルだ。
タンクのリミットが刻々と迫る。
転回場所までたどり着いた!
よし、後は反対車線に乗って、
あの店(のW・C)に行けばゴール!
という状況になった。
…今だ。
行き交うクルマの中、千載一遇の瞬間が訪れる。
今しかない。
「
行けっ!」
………
……
…
と、
俺は、行けなかった。
何故かというと、
イメージで引っかかったことがあったから
理由は、これだけだった。
俺は、この場所の特性を良く知っていない。
ましてや、今は地元の方が慌てるほどの天候なのだ。
そうした人が、大変だと言っている騒ぎなのだ。
予測できないスリップの危険
引っかかったのは、それだ。
そんな所で、クルマを転回…などという、自分はおろか他者にまで危険を及ぼすような行為は出来ない。
すぐその先で、交通事故になってるしね。
転回出来る場所まで来た際、
その先に迂回できる順路を示した標識があった。
現場の交通事情を観た様子では、
この標識通りに行けば、時間はかからないようだ。
この数秒の違い。
イメージの最終結果は、TOILETに着くことなのだ。
こうした場合、結果にたどり着くためには、遠回りが一番の近道なのだ。
その為、予備タンクを作動させる。
予備タンクなんてあるの!?
と言われそうだが、あるものだ。
そして、迂回を選択した。
程なくして、迂回したすぐ先で「P」の看板を発見する。
ここでは迷うことなく、その「P」にイン。
そこで「P」の番人、オニイチャンが誘導してくれる。
「すげー、大都会ナンバーじゃないですか!」
お兄チャンが喜ぶ。
そうか。
けどね、ちょっとその話は置いといて…
「…」
手短に用件を伝える。とにかく、俺の用事を済ませないといけない状況だ。
お兄チャンは、直ぐにトイレへと案内してくれた。
やっとたどり着いた…
…………
……
…
何かする前には、準備が大事だよなぁ
と、自分に戒めを込めて用を済ませ、相棒、というかお兄チャンの元へ向かう。
大都会にあこがれているというお兄チャンの話を聞きながら、このパーキングについての説明を伺う。
このパーキングはあるビジネスホテルに直結しているものであった。
お兄チャンは、このパーキングの秩序を守る、守護者だったのだ。
「…」
本日の状況、また、このお兄チャンの抜群の好感度により、
一旦この宿泊所に泊まり、明日改めて出発することにした。
相棒を、一旦お兄チャンに託す。
さっさとチェックインを済ませ、ルームキーを受け取る。
部屋に入ると、直ぐに姿見があった。
見る。
…
ダレだ、これ。
それは私です。
…自分が映った。
雪にさらされた髪。
ずぶ濡れのダウン。
ヨレて汚いTシャツ。
これは、人から避けられても仕方のない格好だ。
「…」
服装を整えなければならない所から始めるか…
先程、大型衣料品店の位置を確認したばかりだ。
洗面所で顔を洗い、俺は目的の店に向かうことにした。
(続く)