【とある旅物語・18】

【前回までのあらすじ】
北に旅に出た。ロクな準備もせずにやってきたその地は、行きは良かったのだ…
というところであった。
様々なトラブルに遭遇する中、俺はこの日最後の賭け、
J〇Fに連絡をしてみる。
そして…

さてと。
後は、待つだけだ。
何気なしに、相棒のラジオチャンネルをスイッチする。

ぴーぎゅるるるるががががざざざざー
ザザザザー

もう、良い加減解れよ!
と言わんばかりの、
それしか聞こえない。
うん、これは知ってるんだよ。
さっきも、これと同じ間違いをかましたばかりだ。

これはね、習慣ってやつなんだよ。
いきなり、直せないモノなんだよ。
生活習慣は、早々改められないの。
普段の積み重ねが成せることなの。

またまた、適当に言い訳して適当にチューニングする。

「…の地方は、かなり大雪で車両は進めない状況の…」

同じ事しか流れてこない。
このラジヲは、もしかしたら壊れているのかも知れないな。
勿論そんなことはないのだが、そう思うことで心安らぐひとときがあるものだ。

何か、温かい飲み物が欲しい。
先程の自販機の前に行く。
コインを入れようと財布を取り出すと、
五十三円
あった。

五十円玉一枚と、一円玉三枚。
どんなに格安としても、さすがにこの値段では、温かい飲み物は買えない。
何処をどう見てもそれしかなかった。


こういう時は、クルマの中を探せば、意外と硬貨が落ちているものだ。
相棒の中をチェックする。


俺はズボラではあるが、意外と繊細である。
散らかしはするが、そこら辺に大切なものを置いておくようなことはしない。
こういうコトについては、第三者から言わせると「お姑さんより細かい」のだそうだ。             窓枠を指で拭ってその埃を確認したりはしない。                             が、違う意味での細かさがあるようだ。                                   

俺みたいなやヤツと一緒に住んでいたとしたら、いつか毒を盛る、というレベルで、
周囲からは、そうした生々しい事を実際に言われていた。

まあ、しかし
良い例えなのだろう( ;∀;)
俺はケチではないつもりだ。
だが、そういうものではなく、何か違うところにその何倍も細かかったりするのが、俺だ。
周囲からそう表現されるのには、それなりの意味があったりするものだ。

けど、そんなもんじゃないの?
礼節とか、細かい事ってあくまで自分基準でしかない
他人にも厳しいが、自分にはもっと厳しいんだから
と、何気なく自分にフォローを入れる。

…その為、その辺に硬貨は落ちていなかった。
だが、何かの500円記念コインがあるのを見つけた。

これ、何の記念コインだったっけ…?
あの時のイベントで買ったやつだっけ?
何のメダルだったかな、これ?

形は500円玉なのだ。500円の刻印まである。
とにかく、相棒に無造作に放置されている理由としては、
もう一つ同じものを持っているとか、
何が何だか分からないような、果てしない記憶の彼方にあるようなものなのだ。
そういったことが理由であるため、今の場合は使用しても差し支えないということだ。
俺の今までを振り返ると、そういうコトになる。

そして、その500円玉記念メダルコインを自販機に投入した。

カコッ

投入口から釣銭出口まで、そのコインが出てくるのに1.5秒くらいだった。
もう一度、コインを投入する。

カコッ

ふむ、やはり1~2秒くらいではないだろうか。                               

っていうか、そういった検証をするためじゃない!
買えないのかい、飲み物!

この500円記念メダルコインは、自販機では通貨として認識されていないのだ。
偽造防止のために、流通している通貨以外は問答無用で叩きだす仕組みだ。
テクノロジーの進歩はすさまじいものだが、なんちゅうこっちゃ!

そこら辺の質屋にでも売れば違った価値はあるのだろうが、
今必要なのは質屋さんではない!

そんなことであたふたしていると、
ある回転灯を回した車両が目についた。

あれは、Jか?

だが、レスキュー要請した時には最低でも45分くらいとまとまっていたはずだ。
まだ、15分くらいしか経っていない。
あまり、期待はしない方が良い…
都合の良い思い込み、勘違いは否定出来ない。
だが、こっちに向かってきている。
相棒の中に戻る。

あれを信じていいのか。

しかし、所詮この世はすれ違いで出来ている。
苦い思い出が脳裏を走った。
思い込みというのは、結果自分にとって前進できる良いこともあれば、爆散する起爆剤になり得るものの一つだ。
だから、使いどころを誤ってしまってはならない。
その為、回転灯の行方を観察する。
そして、その回転灯は徐々に距離を縮め、相棒の前に車両を停め、
見る見るうちに近づいてくるとある男性が、相棒のドアをノックし、
「連絡を受けて来ました!」と。
ドアを開ける。

Aから救助連絡を受けて来ましたFです!」

おおおー、何という勇ましさだ。
長年の片思いが通じた気分だったのは、俺の勘違いだろう。
状況をFさんに説明する。
Fさんは、早速作業に取り掛かる。俺も手伝おうと申し出たが、
「その軽装備では無理です。車内にてお待ちください」
との事だった。
接客も教育されているのか?的確かつ完璧な応答ではないか。
よって、相棒の中で作業されながら待つことにする。
そして…
(続く)

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