【前回までのあらすじ】
北に旅に出た。ロクな準備もせずにやってきたその地は、行きは良かったのだ…
というところであった。
様々なトラブルに遭遇する中、俺はこの日最後の賭け、
J〇Fに連絡をしてみる。
そして…
さてと。
後は、待つだけだ。
何気なしに、相棒のラジオチャンネルをスイッチする。
ぴーぎゅるるるるががががざざざざー
ザザザザー
もう、良い加減解れよ!
と言わんばかりの、
それしか聞こえない。
うん、これは知ってるんだよ。
さっきも、これと同じ間違いをかましたばかりだ。
これはね、習慣ってやつなんだよ。
いきなり、直せないモノなんだよ。
生活習慣は、早々改められないの。
普段の積み重ねが成せることなの。
またまた、適当に言い訳して適当にチューニングする。
「…の地方は、かなり大雪で車両は進めない状況の…」
同じ事しか流れてこない。
このラジヲは、もしかしたら壊れているのかも知れないな。
勿論そんなことはないのだが、そう思うことで心安らぐひとときがあるものだ。
…
何か、温かい飲み物が欲しい。
先程の自販機の前に行く。
コインを入れようと財布を取り出すと、
五十三円
あった。
五十円玉一枚と、一円玉三枚。
どんなに格安としても、さすがにこの値段では、温かい飲み物は買えない。
何処をどう見てもそれしかなかった。
…
こういう時は、クルマの中を探せば、意外と硬貨が落ちているものだ。
相棒の中をチェックする。
…
俺はズボラではあるが、意外と繊細である。
散らかしはするが、そこら辺に大切なものを置いておくようなことはしない。
こういうコトについては、第三者から言わせると「お姑さんより細かい」のだそうだ。 窓枠を指で拭ってその埃を確認したりはしない。 が、違う意味での細かさがあるようだ。
俺みたいなやヤツと一緒に住んでいたとしたら、いつか毒を盛る、というレベルで、
周囲からは、そうした生々しい事を実際に言われていた。
まあ、しかし
良い例えなのだろう( ;∀;)
俺はケチではないつもりだ。
だが、そういうものではなく、何か違うところにその何倍も細かかったりするのが、俺だ。
周囲からそう表現されるのには、それなりの意味があったりするものだ。
けど、そんなもんじゃないの?
礼節とか、細かい事ってあくまで自分基準でしかない
他人にも厳しいが、自分にはもっと厳しいんだから
と、何気なく自分にフォローを入れる。
…その為、その辺に硬貨は落ちていなかった。
だが、何かの500円記念コインがあるのを見つけた。
これ、何の記念コインだったっけ…?
あの時のイベントで買ったやつだっけ?
何のメダルだったかな、これ?
形は500円玉なのだ。500円の刻印まである。
とにかく、相棒に無造作に放置されている理由としては、
もう一つ同じものを持っているとか、
何が何だか分からないような、果てしない記憶の彼方にあるようなものなのだ。
そういったことが理由であるため、今の場合は使用しても差し支えないということだ。
俺の今までを振り返ると、そういうコトになる。
そして、その500円玉記念メダルコインを自販機に投入した。
カコッ
投入口から釣銭出口まで、そのコインが出てくるのに1.5秒くらいだった。
もう一度、コインを投入する。
カコッ
ふむ、やはり1~2秒くらいではないだろうか。
っていうか、そういった検証をするためじゃない!
買えないのかい、飲み物!
この500円記念メダルコインは、自販機では通貨として認識されていないのだ。
偽造防止のために、流通している通貨以外は問答無用で叩きだす仕組みだ。
テクノロジーの進歩はすさまじいものだが、なんちゅうこっちゃ!
そこら辺の質屋にでも売れば違った価値はあるのだろうが、
今必要なのは質屋さんではない!
そんなことであたふたしていると、
ある回転灯を回した車両が目についた。
あれは、Jか?
だが、レスキュー要請した時には最低でも45分くらいとまとまっていたはずだ。
まだ、15分くらいしか経っていない。
あまり、期待はしない方が良い…
都合の良い思い込み、勘違いは否定出来ない。
だが、こっちに向かってきている。
相棒の中に戻る。
あれを信じていいのか。
しかし、所詮この世はすれ違いで出来ている。
苦い思い出が脳裏を走った。
思い込みというのは、結果自分にとって前進できる良いこともあれば、爆散する起爆剤になり得るものの一つだ。
だから、使いどころを誤ってしまってはならない。
その為、回転灯の行方を観察する。
そして、その回転灯は徐々に距離を縮め、相棒の前に車両を停め、
見る見るうちに近づいてくるとある男性が、相棒のドアをノックし、
「連絡を受けて来ました!」と。
ドアを開ける。
「JのAから救助連絡を受けて来ましたFです!」
おおおー、何という勇ましさだ。
長年の片思いが通じた気分だったのは、俺の勘違いだろう。
状況をFさんに説明する。
Fさんは、早速作業に取り掛かる。俺も手伝おうと申し出たが、
「その軽装備では無理です。車内にてお待ちください」
との事だった。
接客も教育されているのか?的確かつ完璧な応答ではないか。
よって、相棒の中で作業されながら待つことにする。
そして…
(続く)