【とある旅物語・17】

【前回までのあらすじ】
旅に出た次の日、その地は猛吹雪となっていた。
そこから脱出を試みるも、次々と試練が訪れる。
最大のパートナー、愛車である相棒の機嫌を損ねながらも何とか解決への糸口を見つける。
これは、今から十数年前の出来事である。
そして…

相棒の計器類を確認する。
安定しているようだ。
これなら、エンジンが止まるというアクシデントもないだろう。
この間、再び相棒にはどっさりと雪が積もっていた。
雪まみれの、フロントガラスの処理から始めなくてはならなくなったが、
それは一回やっているので問題は無い。
とは思いつつ、ワイパーのスイッチを入れる。

カチッ

スイッチを入れる音は分かるんだけれども、作動しない。
それだけ、雪が積もっている。
宿を出るときに、やってみたことを再度繰り返す。
その時、ダメなのにやってみる自分を少し好きになったり嫌いになったりしたが、
再び、学習能力のない自分をまた少し好きになったり嫌いになったりした。


車外に出るのは、これで何度目か…
相棒のボンネットを閉じる。

そして、
本日三度目となる「最後の力の一歩手前」を使うことにした。
一日、三回まで。
もう、本日これ以上は使えない。そういう危険を伴う技だからだ。
ここでは、
「相棒に積もった雪を落とし」、
「後輪周りの雪をどかし」、
「チェーンを履かせる」
この一連の三段作業を、残り一回の「最後の力の一歩手前」で完結することが必要だ。

蘇った相棒に問う。
「いつでもやれよこの馬鹿野郎」
とのことだった。
なるほど、準備はOKという事だな。

そして、
「相棒に積もった雪などどかせる」←先程やってるため
「後輪周りの雪もどかせるレベル」←掘ればいいのだ
「チェーンは自力で付けられる」←そのための用具である
この問題についての解。
条件は、揃ったはずだ。


集中する。

まずは、フロントガラス関係の積もった雪を、例のブチかましにより撤去。
すかさず、ワイパーをON!
ウイイイン
よし、作動した。
そして間髪入れず、後輪周りの積雪をどかす。
この時、カー用品店でのシャベルが浮かぶ。
あれがあれば、どんなに便利なんだ…
しかし、ないものはない。
頼れるのは、己のみなのだ。
後輪周りの雪をどかした。
そしていよいよ、そこら辺に置いておいたタイヤチェーンの出番が来た。
ケースに入っているそれを、取り出そうとした。

しかし、取り出せない。
ケースの留め具、あの「パチッ」ていう、その金具が解除できない。
何度も何度も試すが、その金具が外せないのだ。
手を見ると、
濃紫色になっていた。
この寒さで、俺の思い通りに細かい作業が出来なくなってしまっていた…
ここで、「最後の力の一歩手前」の効果が切れる。
現実に戻る前までが勝負なのに、現実に戻ってきてしまった。


数分後。
俺は、車内で呆けていた。

なんてこった。
ここまで来たのに。
条件は揃っていたはずなのに。
俺の指のせいで…全てをぶち壊してしまった。
回復してから、もう一度作業するか?
…いや、とてもじゃないが、そんな気力はもうない。
これが、必殺技の危険たる所以なのだ。

…ふと、助手席を見る。
先程、確認していた整備手帳が置かれている。
放置してしまっていた。
いかんいかん、ちゃんと元の場所に戻しておかないと、次に困るからね。
整備手帳を片付けようと手にしたとき、

ポロリ

と、何かが落ちた。
カードのようだが、何のカードなのか見当がつかなかった。
何だろうか、少なくともカード類はこんなところに仕舞ってはいないはずだ。
手に取って、確認する。

それは、J〇Fのカードだった。


J〇F?
そういえば、かなり前に会員になっていて、
使いもしないのに、毎年お金だけは払っていた。

…待てよ。
そうだよ、これだよJ〇F!
こういう時こそってなもんでしょ!

相棒の暖房で、携帯の操作が出来るまで指力を回復させる。
そして、J〇Fに電話する。
(以下、J〇Fさんを便宜上『J』とします)
「メールにて詳細をお送りください」
と、無機質なガイダンスが流れて電話が切れた。

なにー!

カードに記されているページにアクセスする。
自分の現在地、レスキューしてほしい状況を打つ。
その後、直ぐに携帯が鳴った。
電話口の先は、ガイダンスではなく人だった。

J:「状況は把握しました。GPS機能はありますか」
俺:「携帯にあります」
J:「onにしていただくとありがたいのですが、可能でしょうか」
可能です。
バッテリーが持てば!

俺の携帯は、様々な機能を使うと10秒くらいであっという間にメーターが0%になってしまうものだった。
だが、そんなことは言っていられない。
そして、予備のバッテリーパック(この時代ですから)は、普段から持ち歩いている。
その為、入れ替えをすれば少なくとも120秒は持つはずだ。
一旦電話を切り、GPSをonにする。再度、電話が鳴る。

J:「おおよその位置を特定しました。○○県○○△△××何丁目どこそこ地点ですね」
俺は、そこまで自分のいる細かい位置が分からない。
だって、知らない場所なんだから…
しかし、もうJさんは分かっているのだ。
恐るべし、GPS。
グローバルポジショニングシステム。

ちょっと言ってみただけです。

J:「一番近い車両が、○○付近を走行中です。そちらに向かうよう要請しております」
俺:「そうですか、ありがとうございます。どのくらいかかりますか?」
J:「現場からは○○㎞の地点なので、最低でも45分前後とみていただければと思います。ただ…」
おっと、その先は分かるよ。
この天候だし、色々要請来てるのは明白。
俺:「5時間くらい待てますので大丈夫です」
先に言っておいた。
J:「ありがとうございます。必ず向かいますから暫くお待ちください」
ここで、終話となる。

…さて、出来る事はした。
後は、待つしかない。
GPSの使用処も済んだので、OFFにする。
携帯バッテリーの残量は、赤く点灯している。
携帯を見つめた。
…こいつのバッテリーが切れたら、もう後はないかもしれない。
そして、相棒。
コックピットから見れば、動作はしている。
異常は確認されない。
…相棒に何かあれば、もう後はない。
まあ、何にしろ退路は断たれた。
あとは、進むのみだ。

先は天に任せ、J〇Fの到着を待つだけだ。
今、出来る事はこれしかない。
そして…
(続く)

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