【前回までのあらすじ】
北の地に旅に出た俺。
そこは、翌日には吹雪で荒れる地と変貌を遂げる。
相棒である愛車と共に脱出を試みるも、その際中に険悪になったりしながら一旦避難する。
途中、「Aさん」の助力、また一日三回まで使用可能な必殺技、「最後の力の一歩手前」を二回使用する。
相棒の元に戻るが、相棒はピクリとも動かなくなっていた。
バッテリーに手を付けようとしたその時、相棒が俺を制止する。
そして…
…
頭を冷やす。
いかんいかん、キチンとした整備環境もない中で、バッテリーに手を付けようとするとは…
この猛吹雪の環境が、更に頭をクールダウンしてくれる。
…汗だくだ。
こんなに寒いのに、滴る汗の量がハンパではなかった。
一旦車内に入り込む。
髪がパリパリしていた。
汗をかいた後って、髪の毛パリパリになるが、
これはちょっと違うぞ。
相棒のバンパーみたいに、放っておくと氷柱になるような感じだ。
変に整えると、ボッキリ髪が折れるのか?
そんなことはなかろうが、放っておくことにした。
「…」
もう一度、セルを回す。
キュ…カスッ
うーん、セルはかかっているのだ。
何が原因なのだろうか。
取り敢えずもう一度車外に出て、エンジンルームのそこら辺を適当にスパナで叩く。
古典的な方法ではあるが、例えば映りが悪くなったテレビ。
横っ面を引っぱたいて、キチンと映るようになることがあった経験はあろうかと思う。
それは、何かの接触が悪くなっていたとかが原因で、
引っぱたくことにより、それが丁度噛み合ったりするのだ。
その為、このコツコツと引っぱたくというのは、無意味なようで意味深い、非常に効果的だったりするものなのだ。
再びキーを回すが、変化は特にない。
後、考えられることは…
もう一度、相棒の整備手帳を見直す。
以前と違うことは何かを探るためだ。
そして、違いを発見した。
エンジンオイル。
前回の整備の時には、少しケチってグレードの低いオイルを入れていた。
どうせ、3か月後には入れ替えるんだから…とか思っていたためだ。
最高峰の手入れをしているんじゃなかったの、アンタ
そういうツッコミを、先ずは自分から自分に入れる。
…
いいの!
その時は、そうしたの!
だって、こんな所に来るなんて想定してなかったの!
このような反論は、社会ではまず許されはしない。
こんなことはさて置き、
エンジンオイル。
こいつに原因があるとすれば、もう解決したようなものだ。
気温〇℃以下では正常に作動しなくなる
そうさ。
外気温は、相棒からの情報によれば、マイナス5℃なのさ。
その気温でのこのオイルの動作保証、確認していなかったよ。
その為、オイルの練度低下によるエンジン不良と結論する。
こういう場合は、
とにかく腰を据えて何度かキーを回す
それによりオイルの練度がやがて暖められて緩まり、
エンジンにきちんと回るようにまで潤滑して、エンジンがかかるのだ。
数分置きに、キーを回す。
気を付けなければならないのは、連続してキーを回してしまうことだ。
そうすると、いよいよバッテリーがまずくなる。
卵を温めるように。
優しく、ソフトに。
焦ってはいけない。
そして、30分くらい経過した時だった。
何度目かのイグニッションになったその時、
キュルル…ウオオオン
相棒が応えた。
おお、かかったぞ!
おっしゃー、てめえら火を燃やせ!
ドンドコバリバリ火を焚け燃やせ!
原始時代だったら、こんな感じかもしれない。
相棒は復活した。
「いつものにしとけよこの馬鹿野郎」
と、相棒。
そうだな。
俺が悪かったよ。
しかし、コイツは馬鹿野郎しか言えんのか…!
だが、そんなことはどうでも良い。
そして、ここからがまた難関だ。
タイヤチェーンを履かせるという課題が残っている。
環境には申し訳ないが、相棒のエンジン状態を保つために何度か空ぶかしをする。
その分、環境基金に募金することにした。
そして、相棒が安定してきた頃、
いよいよタイヤチェーンを履かせる時が来た…!
(続く)