【とある旅物語・14】

【前回までのあらすじ】
北に旅に出た俺。
かの地では、吹雪による困難が待ち受けていた。
そこで、様々な助けを受けながら、
また新たな困難に出遭うこととなる…

さて。
大通りまで、来たぞ。
大渋滞に大きな変化は見られない。
確か歩道があったはずだが、
その境目の縁石は、雪に埋もれて分からない。
無数のクルマが、
その縁石を越えて、縦横無尽に拡がっている。

そして、
相棒の待つ駐車場は、ここからでは計り知れない場所にある。
どこから、必殺「最後の力の一歩手前」を使うべきか…

その時、
何かに躓いた。

ズテッ

と、前のめりに崩れる。


お、これ、縁石じゃないの?
境目は分かった。

後は、これに沿って進んでいけば良いのだが、
何しろ大渋滞のクルマの数々!
車道や歩道など、もう関係ない状況なのだ!
ひとは、歩道
クルマは、車道
などという、そんな道徳など今のこの場には存在していないのだ!
ここで、事故に遭っても雪に埋もれるだけさ。
そして、この吹雪。
とにかく、息が吐けない!


相棒の位置はおおよそになるが、
俺はここで「最後の力の一歩手前」を使った。

集中する。

水の中には、潜ったことはあるかい?
そこで、息したことある?
吸ったら大変だよ、ガボガボ、ってなるよ!
嘘だと思うなら、試してみるといい。
そして、
息を吐くのは、それに比べれば出来るよ。
潜る前に、吸ってたのを出すだけだから!
嘘だと思うなら、試してみるといい。
で、
今は逆になっていて
要するに潜水で、
吸うことが漏れなく可能な状況でしょ。
ガボガボ状態なだけだ。
今、やる意味がある?
…と考えてしまう、現実に戻る前までが勝負なのだ!

そして、
っていうか、やっぱり苦しいんですぅ
どこか、穴があったら入りたい
スーハーと、呼吸させてくれ

誰かー!

と、叫ぶ直前までが、ここでの必殺「最後の力の一歩手前」となる。

このおかげで、かなり歩行は捗った。
途中、何台か渋滞のクルマにぶち当たった(轢かれたという説もある)が、
必殺技の前には、そのようなことは関係なかったのだ!
どのくらい、この時間を彷徨ったか。
ヘロヘロになって、相棒の元にたどり着いた。

…」

相棒は、その場に陣取って居る。
すっかり雪にまみれ、
ここから出発する前にまでに温まっていた、ボンネットから融けた雪が、
バンパーやタイヤハウスに、それが氷柱となって残っていた。
これが、マイナスの世界か…

タイヤチェーンの入ったケースをそこら辺に置く。
こいつを履かせるためには、まず相棒を少し動かすところからだ。
相棒のロックをアナログ作戦により開け、
例によってドシャっと入ってくる雪と共に、構わずシートに座る。


外気とは違う、相棒の冷え切った車内の冷気。
寒いのは変わらないが、温かく感じるのはなぜなのか…

一旦落ち着いた後、
エンジンをかける。
キュ…
カスッ

ん?

もう一度、キーを回す。

キュカス

ん?
なんだこれは。
このテンポの早さは何だ。

もう一度、と思うのとは裏腹、
俺の身体がエンジンをかけるのを止める。
何故、エンジンがかからないのか。
考えられる原因が、幾つかあるのだ。

こうした場合、無暗にセルを回してしまうと、まずバッテリーに影響が出る。
セルを回すために、電圧を使うからだ。
そうなると、バッテリー上がりと同等。
そのため、色々確認する必要があるのだ。
俺が真っ先に思ったのは、
先のスタンドで相棒に放ってしまった
「あの余計な一言」
それだ。


そんなことあるんかい、とは思いつつも、

この状況
このタイミング

やはり、俺に何かが欠けてしまっていたと考えるべきだ。
そして…


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