【とある旅物語・13】

【前回までのあらすじ】
何の準備もせずに、北に旅に出た俺。
そこで、様々な困難にブチ当たることとなる。
だが、その地の「Aさん」との出会いにより、
その困難を打破する状況が生まれる。
そして…

店の駐車場には、
まばらに停まっているクルマがあった。
買い物に訪れているお客さんが居ることは確かだ。
店頭には、シャベルが沢山並んでいる。
一応、念頭には入れておく。

俺は店内に入り、
脇目も降らずに「タイヤコーナー」へと突き進んだ。


あるぞ、
タイヤチェーンが!
パンパンに陳列されているではないか!

で、
その中から相棒に合うものを探さなければならない。

靴に置き換えてみると、
見た目が気に入った靴が、あるとする。
そして、自分の足サイズが、24.5だった場合。
その見た目気に入った靴は、何故か
24.0
とか、
25.0
のサイズしかない。
24.5、それしかしっくりこないことは分かっているはずなのに、
見た目やら何やらに妥協して、どちらかのサイズを選んでしまう!

そしてそれは、
その後絶対に自分の足には合わず、
置物として残ってしまうのだ!
…そんな経験、俺だけでしょうか。
譲れない部分は、
相棒のサイズにハマるチェーン
なのだ。


複雑に考えていたのとは逆に、
直ぐに見つかった。
直ぐに見つかった割には、
このサイズは後ひとつしか残っていなかった。
迷うことなく購入する。
後、気になる事は…

あの、胸のザワめきだ。
相棒のエンジンを切った時、
公園の駐車場から出るときに感じた、あのザワめき。
ここまで来たのだ。
他に、見落としはないかと考える。

「…」

いや、考えだしたらキリがない。
泥沼にハマるパターンだ。
このタイヤチェーンのみを持って、相棒の元に戻るのが最善であろう。


時刻の確認をする。
この時の俺の愛用、
オリエントのアナログ腕時計は、午後12時50分を示していた。
宿の駐車場を出るときに確認した時は、午前9時40分くらいだったはずだ。
この状況からすると一連、思ったほど時間は過ぎてはいないが、
それはAさんの厚意もあってのおかげだ。

感謝しつつ、
しかし、この猛吹雪の中、
タイヤチェーンを抱えて、相棒の元に戻れるのか。
結構、ここまで来るのに時間かかったぞ。
俺は再び、ダメ元作戦に出る。                                      そこら辺の店員を捕縛し、尋問する。

俺:「クルマを停めてある場所まで出張みたいなの出来ませン
店員:「出来ません」
うむ。
」が閉じる前に終わった。


ダメ元だから。
しかし、これは何のコミュニケーション障害が起こっているんだ!
」(カッコ閉じ)まで、言わせてくれー!
後は、徒歩しか選択肢はない。

店頭のシャベルは気にしていたが、
これ以上荷物を持って歩ける事態ではなかった。


行くしかない。
タイヤチェーンの入ったケースを抱え、俺は店を後にする。

温まって平穏だった店内とは一転、
途端に吹雪で満ちた混沌の場にさらされる。
こんなので、相棒の元までたどり着けるのか…

正確には計っていなかったが、
Aさんのクルマにて、ここまで来るのに30分は越えていたはず。
「通常で、クルマで15分」が、
「これで、クルマで30分」くらいになっている。
これを、歩いたらどうなるのか。
しかも、タイヤチェーンを背負って、という錘付きだ。

「…」

一歩一歩進むが、新たな壁にブチ当たる。

錘は良いのだが、

この吹雪!

真正面から向かってくるそれに対して、
息が吐けない!

入り込んでくる暴風に対して、
対抗できる出口がないのだ!

入り口は広いけれど、出口は狭い
という、
海外の、何処かの学校みたいなもんか?

とにかく、息を吸うことは出来るが、吐くことが出来ないのだ!
学生時代のマラソンを思い出した。
下り坂を走るのに、確かこれと似たような事があった…
呼吸法が大切なんだよなあ…

けど、
今は状況がそれとは違う!

「…」

俺は、必殺「最後の力の一歩手前」を使うことにした。
本日、二回目の使用となる。
そして…
(続く)

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