【前回までのあらすじ】
何の準備もせずに、北に旅に出た俺。
そこで、様々な困難にブチ当たることとなる。
だが、その地の「Aさん」との出会いにより、
その困難を打破する状況が生まれる。
そして…
店の駐車場には、
まばらに停まっているクルマがあった。
買い物に訪れているお客さんが居ることは確かだ。
店頭には、シャベルが沢山並んでいる。
一応、念頭には入れておく。
俺は店内に入り、
脇目も降らずに「タイヤコーナー」へと突き進んだ。
…
あるぞ、
タイヤチェーンが!
パンパンに陳列されているではないか!
で、
その中から相棒に合うものを探さなければならない。
…
靴に置き換えてみると、
見た目が気に入った靴が、あるとする。
そして、自分の足サイズが、24.5だった場合。
その見た目気に入った靴は、何故か
24.0
とか、
25.0
のサイズしかない。
24.5、それしかしっくりこないことは分かっているはずなのに、
見た目やら何やらに妥協して、どちらかのサイズを選んでしまう!
そしてそれは、
その後絶対に自分の足には合わず、
置物として残ってしまうのだ!
…そんな経験、俺だけでしょうか。
譲れない部分は、
相棒のサイズにハマるチェーン
なのだ。
…
複雑に考えていたのとは逆に、
直ぐに見つかった。
直ぐに見つかった割には、
このサイズは後ひとつしか残っていなかった。
迷うことなく購入する。
後、気になる事は…
あの、胸のザワめきだ。
相棒のエンジンを切った時、
公園の駐車場から出るときに感じた、あのザワめき。
ここまで来たのだ。
他に、見落としはないかと考える。
「…」
いや、考えだしたらキリがない。
泥沼にハマるパターンだ。
このタイヤチェーンのみを持って、相棒の元に戻るのが最善であろう。
…
時刻の確認をする。
この時の俺の愛用、
オリエントのアナログ腕時計は、午後12時50分を示していた。
宿の駐車場を出るときに確認した時は、午前9時40分くらいだったはずだ。
この状況からすると一連、思ったほど時間は過ぎてはいないが、
それはAさんの厚意もあってのおかげだ。
感謝しつつ、
しかし、この猛吹雪の中、
タイヤチェーンを抱えて、相棒の元に戻れるのか。
結構、ここまで来るのに時間かかったぞ。
俺は再び、ダメ元作戦に出る。 そこら辺の店員を捕縛し、尋問する。
俺:「クルマを停めてある場所まで出張みたいなの出来ませン
店員:「出来ません」
うむ。
」が閉じる前に終わった。
…
ダメ元だから。
しかし、これは何のコミュニケーション障害が起こっているんだ!
」(カッコ閉じ)まで、言わせてくれー!
後は、徒歩しか選択肢はない。
店頭のシャベルは気にしていたが、
これ以上荷物を持って歩ける事態ではなかった。
…
行くしかない。
タイヤチェーンの入ったケースを抱え、俺は店を後にする。
温まって平穏だった店内とは一転、
途端に吹雪で満ちた混沌の場にさらされる。
こんなので、相棒の元までたどり着けるのか…
正確には計っていなかったが、
Aさんのクルマにて、ここまで来るのに30分は越えていたはず。
「通常で、クルマで15分」が、
「これで、クルマで30分」くらいになっている。
これを、歩いたらどうなるのか。
しかも、タイヤチェーンを背負って、という錘付きだ。
「…」
一歩一歩進むが、新たな壁にブチ当たる。
錘は良いのだが、
この吹雪!
真正面から向かってくるそれに対して、
息が吐けない!
入り込んでくる暴風に対して、
対抗できる出口がないのだ!
入り口は広いけれど、出口は狭い
という、
海外の、何処かの学校みたいなもんか?
とにかく、息を吸うことは出来るが、吐くことが出来ないのだ!
学生時代のマラソンを思い出した。
下り坂を走るのに、確かこれと似たような事があった…
呼吸法が大切なんだよなあ…
けど、
今は状況がそれとは違う!
「…」
俺は、必殺「最後の力の一歩手前」を使うことにした。
本日、二回目の使用となる。
そして…
(続く)