【前回までのあらすじ】
休暇の中、相棒であるクルマと共に北の地に旅に出た俺。
そこで、天候大荒れの大雪に見舞われることとなる。
その地からの脱出を試みるが、都度問題にブチ当たる。
困り果てウロウロしている中で、「Aさん」という人に出会う。
そして…
俺は相棒にしばしの別れを告げ、
Aさんのクルマの助手席に乗り込む。
「じゃあ、行くよ」
Aさんの軽自動車は、4WDだった。
この大雪の中を、ものともせずに走る。
「こうでなきゃダメなんだよアンタ」
と、Aさん。
その通りだと思いました!
例えとしては何だが、
言うなれば、俺と相棒は、
何の準備もなくいきなり宇宙に飛び出てきたようなものだ。
しっかりとした準備&装備もせず、
無重力空間に出てきてしまったのだ!
この大雪という荒れた天候の中、
フル装備であるAさんのクルマの性能は段違いだ。
少しうらやましく思った。
…少しだけだよ、相棒
一般道に載り、例のなだらかーな登り坂に差し掛かる。
先はこの大雪、大渋滞で詰まっており、
少し進み、停まり、また少し進むという事を繰り返す。
あの坂の先まで、相当な時間が掛かりそうだが、
Aさんの4WDは坂でも停止、発進が容易に出来る。
これがフル装備か…
しかし、こいつは長期戦になりそうだ。
駐車場からの出発前に、丁度自販機があり、
そこで温かいお茶を二人分購入しておいた。
Aさんにお茶を渡す。
「おや、ありがとう」
と、Aさん。
…
お礼を言うのは俺の方です、とAさんに伝える。
そして、会話が途切れる。
それはそうだろう、さっき出会ったばかりの人と、
しかもこの状況で、
あれこれと会話が弾むほうが難しいだろう。
…
どうして、ここまで親切にしてくれるんです?
と、俺から口火を切った。
一番気になるところであり、一番聞きにくいことであり、
一番話しにくい事であろうからだ。
そういうものは、最初に知っておいたほうが良い。
刹那、
Aさんは、フッ、と笑った。
「いやね、アンタ見たときに、甥っ子の事思い出してさ」
と。
Aさんの話は続く。
「アンタ、甥っ子にソックリなんだよ。行動というかさ」
…
Aさんの話に耳を傾け、先を促す。
「甥っ子、ずっと前に街に出て、それから何年も連絡取ってなくてね。何やってんのか聞きたくて連絡取りたかったけど、理由がなくて」
Aさんは話を続ける。
「一体、甥っ子はどうしてるのか…アンタ見たとき、甥っ子かと思ってね。何か、不思議な事を思ったんだよ」
と。
俺は、黙ってAさんの話を聞いた。
察するに、
ずっと連絡が取りづらくなっているという、「何か」が過去にあったのであろう。
訊くだけ野暮なことだ。
俺は、再度Aさんにお礼を伝えた上で、
これがきっかけで、甥っ子と連絡する理由が出来たんじゃないですか?
と話した。
Aさんがここまで親切にしてくれる理由、その話、Aさんの人となりに、その一片を感じたからだ。
心の引っ掛かり、
それは何時までも引っ掛けたままでいる方が辛い。
何かのきっかけがあって、その引っ掛かりが取れるほうが良い。
Aさんに話す。
「全く、アンタは甥っ子みたいに文句言うね」
と、Aさんから笑みが零れる。
良かった。
その後、Aさんの生い立ちや何故に今日、Aさんが管理事務所に居たのかなどの話で盛り上がり、
気が付けば、なだらかーな登り坂を越えていた。
そこから道を逸れ、
例のカー用品店の看板が見えた。
黄色い帽子のアレだ。
電飾は灯っており、開店しているのが直ぐに分かる。
Aさんは、お店の駐車場に入り込む。
そして、駐車。
…
話が弾んできた後の、
何だか、物悲しい感覚が俺を取り巻いた。
しかし、ここまでの約束なのだ。
俺は、Aさんにお礼を伝え、
助手席のノブに手をかける。
その時、
「ちょっと待ちな、アンタ」
と、Aさん。
「アンタの名前、聞いてなかった。教えてくれるかい」
と。
俺は伝えた。
そして、
「行きもこれだけなんだから、アンタ帰りは…」
「あ、大丈夫っすよ!」
俺は、Aさんの言葉を遮った。
そして、帰ったらAさんの職場、
「駐車場管理事務所」
に、連絡をすると話した。
見ず知らずの俺に、ここまで親切にしてくれたAさん。
それだけでも感謝で一杯だ。
後は、俺がやることなのさ!←カッコつけてます
「必ず、連絡おくれよ」
と、Aさん。
必ず連絡すると約束する。
Aさんのクルマが去る際、
甥っ子さんに連絡してねー
と、伝えた。
…
さて、
ここからがまたアレだぞ。
相棒に合うタイヤチェーンはあるのか。
取り敢えず、向き合うことはコレだ。
俺はお店に入り、
目的のものを探すこととした…
(続く)