【とある旅物語・31】

・前回までのあらすじ

突然休暇を言い渡された俺は、何をして良いのか分からず思い付きで北の地へと旅に出る。
そして、そこで普段の日常とは一変した環境、吹き荒れる雪の中での行動となった。
その地の人々の助けもありながら、ノーマル使用の相棒(クルマ)を随時、その場に適応させ帰路に着く。
ある高速のサービスエリアで、再び選択を迫られるのであった。
そして…

さて。
発進してしまったぞ。もう、後戻りは出来ない。
何故なら、ここは高速道路だからだ。いきなりバックして引き返そうものなら、交通ルールに違反する。

先程確認した、下道へと降りる出口は、数キロほど先だ。
視界は良好。だが、雪雲が過ぎ去った後の爪痕は、そこら辺に積もっている雪で状態が分かる。

下道に降りる出口に逸れた後、高速料金を支払って渦巻き状になっている道を辿る。
やがて、T字路と対面した。
標識がある。そこには、こう表示されていた。

『右:○○』
『左:××』

「…」

どこ、ここ。
は、右も左も分からない状況へと、早速到着してしまった。

これは、選択を誤るととんでもなくなるヤツだ。
一方は正解で、一方は間違い。
間違いを選んでしまえば、俺は逆方向へと進むことになるため、先程までのルートを再現することになる。

「…」

SAにあった地図を思い出すのだ!
あれから、こうやって進んだとすると、そっちに行くのが正解なのだ!

あれとかこれとか、もうそうした単語しか出なくなってはいるが、
あの地図から、方向性だけは記憶しているのだ!

ということで、俺は右折する。
俺の記憶は当てにはならないということは、昨日から分かっている。ので、最早、カンだ。
間違っていたら、もうそれはそれで良いのだ。

やり直せばね…ハァ

ところどころに雪が残る道は、しばらく直線だった。
チェーンを装備しているおかげで、多少緊張感はあるが相棒の操作に関しては神経を尖らせずに済む。
周囲は、雪雲が通過したと感じられる木々が、その枝に雪を載せている。
しばらく進んで行くと、坂道になり始めた。

これは…

山道だ!どうやら、当てずっぽうに選んだ右折は、正解だったようだ!
そして、肝心の秘密基地のようにあるガソリンスタンドはどこだ?
少なくとも、俺の視界ではそれらしきものの発見は出来なかった。

周囲は雪をまとった木々。あと、道。この一本道だけだ。
この先、さらなる坂道でグネグネしていそうだ。
そして、人間が立ち寄ろうとでも思う施設は、この先ぼないだろうというを直感する。


相棒のガソリンメーターを見る。
残量はあと半分ほど、プラス予備の10ℓ。

このひと山を越えるには、何とか持つだろう。なんの山かは知らないが、舐めてるわけじゃないからね。
山道を走行し終えるころには、チェーンを外せる場所があるはずだ。

登り坂を少し直進しては、カーブ。
カーブを曲がれば、また登り坂の直線。

俺以外に走行車がいないため、そこら辺の代わり映えしない景色を時折見ながら、
ゆっくりダラダラと相棒を走らせる。
通常の天候だと、何故か猛スピードのクルマが突然現れて、煽り始めたりすることがある。
こうした山道では、どういうわけかそうしたことに遭遇する可能性が高いのだ。
その為、焦燥感に駆り立てられながら安全運転を心がける余裕もなくなるが、
今は誰もいない。

何か、叫んでみたくなった。

この世界は、私のものだー!!」

相棒の窓ガラスを全開にし、叫んでみた。


こだまを期待していたが、
そのこだまは、返ってはこなかった。

そんなことで相棒を走らせていると、
時折、『動物注意』の標識があるのが見えた。

何の生き物がいるのだろうか。
地球外生命体…とかじゃないよね。
そんなのが出てきたら、どうなってしまうんだろう。
昔、宇宙船に連れていかれるとかいう話が盛んになったことがあるが、
今でもそんなことあるのだろうか。

とにかく、何かの動物が飛び出してくる危険があるということだ。
間違って轢いてしまわないようにしないとね。

そして、この辺りは思ったほど雪が積もっていない。
見た目は、周囲は雪景色ではあるが、道路にはさほど積雪がなかった。
どうやらこの辺りは、雪雲の直撃を免れた地域らしい。

この登り坂に差し掛かって、30分程度走ったころであろうか。
果てしなく続く直線道路が続く道へと出た。
どうやら、登り切ったようだ。後は、同じよう直線とカーブをグネグネして行けば、
山を下りられるはずだ。
積雪量はどんどんと減っていき、もうタイヤチェーンの必要性も役目を終えてきたようだった。

そして、相変わらず人が避難できそうな建物、施設は見当たらない。
これだけ先を見通すことが出来るこの場所でも、周囲には降雪後の木々しかなかった。

俺は、この山を下るまでチェーンを履いたままとし、
下った先のどこかで外すことを考えていた。

他に走行車がいないため、一旦相棒を道路の端に寄せて休憩をとる。
購入しておいたお茶を、口に含む。

「…」

何気なく、携帯を見た。

『圏外』

そう表示されていた。

良く考えると、これって恐ろしいですな。
こんな場所で、相棒に何か問題が発生して走行不能になったら、
どうするんだ?

外部にも連絡取れないし、少なくとも今はこの場所を通る人を誰も見ていないぞ。
助けを呼ぼうにも、歩いて何かにたどり着ける場所なのか?

やはり、『動物注意』というのは…


これ以上、このことについて考えるのはやめておこう。

携帯が圏外だと分った後、お茶のペットボトルのふたを閉め、相棒を発進させようとしたその時。

先程、見通しの良い直線が続く道としか見えなかったが、前方に何か見える。
あれは…

ハザードランプを出しているクルマだ。

陽が落ちるに従い、段々と周囲の影模様が変わってきたこともあり、今気が付いた。
いつから、とは思ったが、この山道で俺を追い越したクルマは一台もいない。
ということは、俺がここに到着するより以前から停まっていたものだ。

ちょっと待てよ。
だが、何で、あんなトコにクルマが停まってるんだ?

それは、何かトラブルがあったからでしょう。
100%、そうだよ。

こんな時ですね、
「見なかったこと、気付かなかったことにして行っちゃお」

とか、絶対、心のどこかで思いますよね、ね!
人間て、そういうものでしょ。

心理学者で教育者のローレンス・コールバーグは、人間の道徳的発達段階において三段階の道徳的発達を経ていくという考えにたどり着いたという。
これについては長くなるので説明は割愛するが、結論から言うと、大人になっても最終的段階である道徳的推理が出来る人間は少ないということだ。
「見なかったこと、気付かなかったことにして行っちゃお」というのは、最終的段階ではない。

「…」

とにかく、今の俺には、この道を進むしかない。
というか、進む道がこの直線しか現物でしかないのだ。

そして、もしかしたらあそこに停まっているクルマは、トラブってるとは限らないではないか。
ただ、単純に何かの樹木、例えば珍しい氷樹みたいなのを見つけて、写真を撮ってたりしているだけかも知れないぞ。

迷っている間にも、時間はどんどんと過ぎていく。
また、相棒のエネルギーも無限ではないのだ。

俺はアクセルを踏み、相棒を前へと走らせる。
次第に、停車中のクルマに近づく。

フロントガラスから見えるものは…

両腕を大きく振りながら、こちらに合図を送っている男性の姿だった。
やっぱり、100㌫トラブル系だったんじゃない。

俺は、そのクルマの後ろに相棒を付け、ウインドウを開ける。
すかさず、男性が近づいてきた。

俺:「何かあったんですか?」
男性:「クルマがガス欠で動かなくなってしまって…何時間も、ここから動けなかったんです」

何という偶然か、俺は予備タンクにガソリンを持っていた。
だが、非常に嫌な予感が脳裏を過ぎる。

相棒のガソリンメーターに目をやると、

残量はあと1/3を切っていた。
それを待っていたかのように、ガソリン警告灯が輝き始める。

あっひゃっはっはっはっはぁ
NO!ドTHANKYUベイベー!!

OOOOH、DOーUシタラYoiノでぃスかぁぁぁぁぁ(*’ω’*)

俺は、男性に何も答えられないでいた。
何故かというとですね、
僕にも余裕がなく、下手をしたらこの男性の身代わりのようになる可能性、

だからです。

「…」

だが、ここで停まってしまった以上、
また、連絡手段を絶たれている山中、
そして打開できる手段が全くない中、

沈黙しながらも、俺はこの男性と共にここから脱出する手段を考える事にした。

そして…

(続く)

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