【とある旅物語・29】

・前回までのあらすじ
休暇をもらい、思いつくままに旅に出た先は雪だった。
帰路の際に様々なアクシデントもあり、出逢いもあった。
帰るルートをチェックし、雪雲突貫作戦を慣行した相棒と俺は、青天の地へ脱出することが出来る。
そして…

サービスエリアに入った。
相棒から降りる。
この時、相棒の外気温度計は4℃を示していた。
空を見上げると、「雲一つない空」が広がっていた。
先程までは、「空一つない雲」だった。

雨は馬の背を境に降るもんだよ、と、おばあちゃんが言っていたが、
こうして空を見てそれを実感すると、天候って不思議なもので、
こういう言葉を遺した人って、本当にすごいと思う。

「…」

とりあえず、自販機でホットコーヒーを購入する。
晴れているとはいえ、気温は低いままだ。

カップから立ち上る湯気。
呼吸をすれば、白い息。

普段は何も考えずに飲むコーヒーだが、一口すするごとに身体がより温まるようだ。
そこら辺を見る。
積もった雪が、陽の光を浴びて輝いていた。
少し眺めていたかったが、

眩しいんだよ!!

目が、目がぁぁぁ
ヒトがゴミのようだぁぁぁぁ

今のキミ(雪)は、ピカピカに光って~~~(←大分過去のCMネタにて注)、
どころではなく、俺には眩しすぎて、一秒も見つめていられないようだ。

コーヒーを飲みながら、相棒の様子をチェックする。
昨夜、お兄チャンが相棒を綺麗にしておいてくれたが、相棒はもうすでに汚れまくっていた。
そりゃあ、あんなところ走ってきましたからねぇ。

…お兄チャン、済まん。

その他色々と見るが、汚れ以外に問題はないようだ。
念のため、相棒に訊いてみる。

「何ともねえよこの馬鹿野郎」
と、相棒。

…ふむ、いつもの調子のようだ。
これからの走行に問題もないだろう。

そして、だ。
これからの帰宅ルートについてもう一度作戦を練る。

現在地は…
まだまだ自宅から離れている、〇△SA、だ。
残りの距離は、あと200㎞以上ある。


コーヒーを一口飲む。

ここから先、我が家に行くために上り方面を突っ走るわけだが、
もう雪雲を貫通している。

よって、ここから先は雪などとは無縁となり、タイヤチェーンを外した高速走行が可能になるわけだ。
その為、大幅に時刻が遅れるということはない、

「…」
はずだ。

更にコーヒーを一口。
これでサングラスでもかければ、きっと俺はあぶないデカになれるに違いない。
…基、あぶないデカではなく、あぶないナニカになれるに違いない。
と、何かのドラマの俳優さんにでもなったかのように、
酔っている自分をかなり好きになったり嫌いになったりした。

ここまで来れば、後はもう帰れたも同然だ。

カップの底に溜まったコーヒーを飲み干す。
この後することは、相棒のタイヤチェーンを外すことだ。

ダッシュボードから作業用グローブを取り出し、後輪のチェーンに手を付ける。

手を付けましたよ。

しかし、手が止まる。

えーとですね、
このタイヤチェーン、どうゆう構造で着けてあるんでしょうかね?

よく見回すが、なんじゃこりゃ?
どこからどう見ても、外す部分が分からないぞ。

ふむ、このタイヤチェーンは、初めて見るタイプだな。
ニュータイプってやつだね、キミは。

優しくチェーンに言ってみたが、何にもならなかった。

で、

なりふり構わず、地面に顔面を押し付けてタイヤのそこかしこをよく見てみるが、

わからん!

首に頭が引っ付いているこの頭部の可動域では、俺には分からんのだ!

何となく相棒を見つめる。

…」

相棒は無言だ。

そうだ。
このタイヤチェーンを購入したのは、確かに俺だ。
しかし、その後はFさんという勇猛果敢な重要人物のおかげで、装着できたのだ。
いや、装着してもらったのだ。

そのため、一番肝心なチェーンの構造、最初の部分を、俺は見てはいないのだ!!
だから、どこから手を付けて良いかが分からなくなっている、という、
仮面ライダーのライダーベルトが破壊されてしまったが如く、あたふたした状態に陥っているのだ!!

こういうのって、アレだヨね。
複雑な組み立て家具とか、DIYが得意な人にやってもらって、
その後不具合が起こって修理とかが必要になっても、自分じゃどうしようも出来なくなるやつ。
ちょっと違うか…

だが、こいつはマズいぞ。
ここで、チェーンを外さなければ高速走行が出来ない。
残り200㎞以上の距離を、ガタガタゴロゴロと時速60㌔で走ったとて、相棒の足回りはどうなってしまうんだ!?
後は、それなりの街に出れば、チェーンが却って他車の邪魔になるではないか。

「…」

考えろ、考えるんだ、俺。
昨日だって、考えて考えて考えて来て行き当たりバッタリやら何やらで、今日まで来れたのだ。

「…」

そこら辺を見回すと、ガソリンスタンドがあった。
しかし、それを見つけたが素直に喜ぶことは出来ずにいた。

何故なら、

逆方向に向かうクルマ(←俺が走ってきた方向)たちの群れが、既に群がっていたからだ。
そりゃ、そうですよ。
キミたちがこれから向かうところには、雪雲が陣取ってるんだからねえ。
だから、ここで色々装備しなきゃ、ってことですよねえ。

その群がりは最早SAのガソリンスタンドのキャパを遥かに超え、昨日のカオスさながら、
まるで魑魅魍魎のような状態になっていた。

「…」

これは、そこに行ったらアカンやつや。

とりあえず、急いでもどうにもならないことを悟った俺は、もう一度カップコーヒーを購入する。
相棒の中に入り、コーヒーを飲みながらひとまずこの後について考えることにした。

(続く)

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