【とあるバーニング旅物語・2】

(前回までのあらすじ)
・社会人となって間もない俺。
変則勤務制の職場であり、その環境に慣れてきた頃であった。
その日、遅番であった俺は、普段と変わらずに自宅から職場へと向かう。
勤務も終わりに近づいた時、俺宛に一本の電話が入る。
相手は、非番の同僚であった。
「キミんち燃えてるで!!」という衝撃の事実が、同僚から伝えられる。
夜道を歩きながら自宅へ到着すると、そこには日中から変貌を遂げた我が家の姿があった。

そして…

明日は早番。
遅番から早番への繋ぎ
これが大変だった。

遅番から帰ってきて、家の事とか片付けて、
落ち着くのは早くても午前0時過ぎになる。
で、早番出勤のための身支度などあるので、
起床が早くなり、
寝る時間というのは必然的に少なくなる。
これが、地味に堪える。

睡眠ではなく、仮眠に等しいのだ。
よって、俺はこの遅番→早番の繋ぎの時には、部屋の明かりを煌々とさせながら寝る事にしていた。
そうすると、適当な時間が経つと目が覚めるのだ。

しかし、
この火事の跡で過ごしてから早番、というのは、
人生初の経験であった。
まあ、何度もあるとそれはそれで問題なのだろうが…
電気が点かないし、真っ暗だ。

確か、災害用のラジオ付き懐中電灯を持っていたはずだが、

「必要な時に必要なものはなぜかない」

という、変わらぬマーフィーの法則に基づき、
どこにしまってあるのかさえ分からなっくなっている懐中電灯を探すことすらせずにいた。

今の時代は災害をより身近に感じるようになったため、こうした「防災グッズ」の類は直ぐに取り出せる場所に置いておくという意識が高まっているが、

この頃の俺は、非常用のこうしたものについては大切なモノよりももっと大切にしまい込んでいた。
室内のどこかにはあるんでしょうけれどね!

まあ、何にしても今探せるところにはない。

「…」

取り敢えず、実家に連絡をしようと思った。
この時俺の愛用腕時計、Gショックは午後10時30分を示していた。
そこで、一旦考えた。

こんな時間に、
「火事に遭いましたー」
とか、連絡されても困るんじゃないかなあ、親。

それよりか、
「昨夜、こんなことが遭ってさー」
と、明けてから話した方が良いだろう。
直ぐに行ける距離でもないし。

既にどうしようもない事態になってるんだから、
ゆとりのある日中に、連絡したほうが良いよね。

後から知るが、俺はこの時、連絡を入れておくべきだったようだ。
この判断の誤りにより、この先色々と面倒くさくなるとは知らず…

暗闇に目が慣れ、
自室のそこかしこを確かめる。

電気は通っていない。
水は出ない。
ガスもダメ。

そこらじゅうのスイッチを入れてみたり、
水道の蛇口を全開にしてみたり、
シャワーのお湯をつけようとしてみたり、

それぞれ三回くらい試したけどダメだったから、それでもう止めた。

直で床に座っていたおしりが冷たい。
辺りは水まみれで、もうズボンなんかベチャベチャよ。

後は、煤けて灰にまみれた何やら、放水で散々な目に遭っている室内のモノ。
電話機を見る。こいつも、もれなく水びだしだ。
とりあえず、受話器を上げてみる。

ツーーーー

あら。
これって、生きてるのかい?
試しに、自分のポケットベル(この時代、まだポケベルは使われていました)に打ってみる。

ピピピ、ピピピ

おー!
鳴ったぞ!
電話回線は、生きているんだ!
この頃の電話回線って、電気じゃないからね。停電でも使えたのです。

そして、
俺の安否確認のため電話してくれたという、その同僚が残してくれたという留守電メッセージを聞こうとしたが、

電気が通じてないから留守電が作動できずに聞けない

という事態であった。

それを放置して、お気に入りの無〇良品で購入したリラックスチェアに腰掛けてみる。

湿っていて、リラックスには程遠い。

床に寝転がってみる。

全身がビタビタになった。

ここで過ごすの?
朝まで?
オールナイト?

「…」

ㇷへヘへへヘ

とりあえず笑ってみた。
笑う門には福来る、っていうじゃないですか。

でもね、

だーっしゃっしゃしょっほっホッほいさっさあこのKuそったれええい
笑い事じゃねえんだよおうこのバっカやろおぉぉぉぉぉぉぉぉおOhYes
アイキャンノットスピークジャパニーズですけどどうかしましたかあ

発狂寸前の笑いを浮かべるまで追い込まれるが、ここで閃いた。

幸いにも職場は歩いていける距離だ。
事情は、申し送りの時に居た夜勤の同僚も知っている。
早めに行ったとて、問題はないだろう。
早番の時間にはまだあるが、俺は職場へと向かうことにした。

玄関を閉め、戸締りをしようとしたが、
しっかりと扉が閉まらなかった。

なんで?

開けようとした時、無理矢理引っぺがしたからかしら?

「…」

何度か戸締りに挑戦したものの、俺の力では扉を閉める事は出来なかった。
そういったことで、開けっ放しにしておいたま職場へと向かった。
火事場泥棒がいたとすれば格好の標的になるであろうが、そんな事はもはやどうでも良いと思えるくらいの惨状だったのだ。

こうして、そのままの格好でスタコラサッサと職場へと急ぐ。
職場は電気が灯っており、普段感じもしない眩しさを感じた。
夜勤の同僚は俺の姿を見るなり、何も言わずにそれぞれの夜食を分け与えてくれた。
ありがたい。

会話はあまり弾まなかったけれどね!

こうして何となく気まずい時間を過ごすこと数時間後、早番の同僚がやって来る時間になった。

そして、

「お前んち燃えたんだって!?」

そして、続々と早番の同僚がやって来て、

「火事だって!?」
「燃えたんだって!?」

次々と訊かれる。

………

っていうか、なんで皆知ってるの?

それを尋ねてみると、同僚の一人があるものを指す。
業務の申し送りノートだった。

そこには、はっきりと

「〇時△分、ぱっちょ宛に外線あり。自宅が火事になったとの事」

と書かれていた。

いやあ凄いですねえ、ウチの職員は。
記録漏れが一切ないという精鋭揃い。
こんなことまで、申し送られるとは。

だけどね、

もうこれ以上聞かないでくれる?
お願いだからやめてほしいんだあ
おんなじこと聞かれるのつらいの

そんなメッセージを送る俺の心は紅く燃えていた。

まあ、こんなことをしても、休憩時間など業務の合間合間に、再び何度も訊かれるんですが…

その中で、とても重要な事を知る。

「なんで火事になったの?」

ある同僚が、そう俺に尋ねた。

そう言えば、そうですよね。
なんでなんだろう。

どっかから小火でも出たのかしら?

まさか、俺の部屋から…?

そう思った瞬間、一気に血の気が引いた。

昨夜は半狂乱になってしまったのと、暗闇のせいで室内を細かく確認せずにいたが、
自分が原因ではない、と、完全に言い切ることなど出来ないではないか!

そう思い始めてから業務にあまり集中できなかったが、早番の仕事を終える。
一刻も早く、自室を検証するのだ!

仕事上がりの前に、上長が
「これからどうするんだい?」
と、声を掛けてくれた。

これからどうするかですって?
間違っていますよ、上長。

どうするかを考えるのはこれからの事ではなく、

今でしょ

有名な教えじゃないですか。

いずれにしても、今の事もこれからの事も正常に考えることなど出来ずにいた。
だが、上長も同僚も、とても心配してくれており、言葉を選んで話しかけてくれているのが分かる。
逆の立場だったら、俺もどう声をかけて良いものか分からないだろう。
皆の優しさを感じる。

とりあえず今やる事は、自室をもう少し良く確認する事だ。
俺は、それを上長に伝えて職場を後にした。

再度我が家へ戻る。

日中で明るい今、
改めて建物の外観を観察してみた。

「…」

※上空から見た現場付近の図※

======================================

|ーーー||ーー–| |ーーーー  ↑駅方面
|ガソリンウチ |道| 誰かの
|スタンド (現場) |路| 
ーーーーーー——–| |ーーーー
      道路
ーーーーーーーーーーーーー  ↓職場方面
     俺
======================================

こうしてよく見るとですね、
ウチの隣にはガソリンスタンドがあるんですよ。

ウチが火事に遭った、という言い方を変えれば、

ガソリンスタンドの隣のアパートで火事が発生した

あら、いやだ

という、
それはとても恐ろしい出来事が起こっていたという事になるのだ!
多分、そう認識していた方もこの周辺には沢山いたのではないだろうか!

消防法の基準をクリアして壁が設置されているとはいえども、
思いがけない出来事というのは起こるものなのだ!
どこのどいつが、完全な安全など保障出来るんだ!?
そう考えると、本当に大惨事になる寸前だったんじゃないのか!?

今のところ、怪我人とか出ているという話は聞いていないし、
ウチが燃えたとはいえ、想像もつかないくらいの大惨事に至らなかったのは不幸中の幸いなのではないだろうか。
俺自身にも、どこからも連絡はないし。

ガソリンスタンドには『臨時休業』の看板が出ていた。

そして我が家であるが、
昨日とは違う、
幾重にもなっている

keep out(立ち入り禁止)

のテープが入り口に貼られていた。

不毛なやり取りですなぁ!
これは、ボクには通用しないんだよぉ!
この悪党めが、こうしてやるぅ!

俺は当時の必殺技「チョップ」で、それを薙ぎ払った。

ここでまた再度注意ですが、

絶対にこんなことをしてしまってはいけません

後々、大変な事になります。

keepoutには、何の罪もありません。

前回レボリューションとか言ってましたが、
こんなレボリューションは必要ないのです。
使用する場所を、ボクが誤っていたのです。
間違ったレボリューションはやめましょう。

守らなくてはならない規則は、守るのが正しいのです。
約束しようねっ(^_-)-☆

とりあえずそれを破ってしまった俺は、アパートの狭いエントランスに再び足を踏み入れた。
集合ポストがあった部分は、完全にポストではなくなっていた。
何か良く分らない鉄板みたいになっており、これでは当分の間、郵便物は届かないだろう。
こういう時、郵便屋さんはどう対処するのだろうか…

もう少しこの周囲を見てみると、
何かあった。
その物体は、何かの骨組みみたいになっていた。

そう言えば、
ここに原チャリが一台あったはずだ。
良く見ると、その原チャリなのではないかい、キミは。
今の姿からは、想像もつかないが…

誰のものか良く分らなかったが、ずーとそこにあったのだ。
停めてはいけない場所なのに、俺も他の住人も誰もかも、気にしていなかったのだ。
何て変わり果てた姿になってしまったのだろう…
俺のじゃないから、何もしないけど。

そして、さっさと自室を目指す。
相変わらず通路はビッチャビチャで、燃えカスとかも入り交じり、
ドブというか沼というかヘドロというか、そんな状態になっていた。

ビタビタの階段を昇り、自室の前に来た。
深夜に職場に出たままの通り、扉は開けっ放しの状態になっていた。

もう一回、扉を閉めてみる。
「…」
やはり、閉まらない。

まだ日が昇って明るいこともあり、良く扉を調べてみた。
すると、扉自体が外側に反って、歪んでいたことが分かった。

もしかして、火事の高熱でヒン曲がっちゃったの?
最初、扉がなかなか開かなかったのって、そんな状態になっていたからなのかい?
ガンプラみたいに、間違ってパーツを組むともう取れなくなっちゃう現象の反対みたいなやつ?

とりあえず、これが閉まらない原因のようだ。
扉がこんなになるなんて、普通に過ごしてればまずあり得ないよ。

自室に入る。
陽が差し込んで良く見える状態で分かるが、なんだよこれ。
とりあえず汚い。

元々ロクに掃除とかしていなかったが、そういう汚いというのとは別の、汚いんですよ。

燃えているもの、凄まじい消火活動によりどうにかなってしまったもの、その跡の現場だというのが良く分かる。

生活必需品である家電、

冷蔵庫
洗濯機
電子レンジ

こいつら、もう終わってるぜ。
ついでに、昨日から電気通ってないから、冷蔵庫の中身がどうなっているのかも気になる。

ドブみたいになっている室内に入り込み、冷蔵庫を開けた。
その中は…

マヨネーズと、一昨日に買ったコンビニ弁当があった。
他には何もない。

どうやら、普段のズボラな性格が功を奏したようだ。冷蔵庫の意味をなさない位、入っているものがない。
食品にダメージは無いように見える。
そして、燃え盛る火炎や凄まじい消火活動からも、冷蔵庫という強固なバリアーにより守られたらしい。
貴重な食料を入手した。

冷蔵庫…
オマエの事は、忘れはしない。
もう買い替えようとしていたんだ

ここで、一回トイレで用を足そうかと思った。

が、

ちょっと待てよ。

水道がダメになってるじゃないですか。

………
……

これをきっかけに、様々な事が一瞬にして不安となり、今後の生活においての激不安が脳裏を過ぎる。

トイレもそうだけどさあ、
布団だってビッチャビチャだぜ?

コンビニ弁当どうやって温めるんだよ
寝床どうすんだよ
風呂どうすんだよ
洗濯どうすんだよ
他の物、どうなってんだよ

………

そうだ。
直ぐに、分かる事だ。
もう、ここにはライフラインが何もないという事を!
住める状態ではないという事を!

そして、
「これからどうするんだい?」
と聞いてくれた上長の言葉は、それを示すものであったという事を!

それは、全てを見通しての言葉だったのだ!

今、ここに居るのはヤバい。
今まで当たり前のように出来ていたことが、出来なくなっている!
とりあえず、トイレ問題だけでも今すぐ何とかしなければ!

そうして俺は、再びドアを開けっぱにしたまま、
一番近いところにあるコンビニでトイレを借りる事にした。

「きのうあそこでかじがあったとこにすんでるものなんですけどおてあらいかりてもよいですか」
と、一からなんとか説明を試みた俺。

近隣コンビニだったから顔見知り+火事の事を知っていてくれていたというおかげで、説明が通じた。問題なく貸してもらえました。

物凄く助かりました。

そして、

多分、これから当面の間、トイレはここを借りる事になる。
コンビニの方も、力になれる事があればと了承してくれた。

俺は、用を足した後にトイレ掃除をした。

バイトと思われるお姉ちゃんから感謝を頂いたが、
そんなのいいんだ。便所掃除くらいやらせてください。

人んちのトイレットを、勝手にクソまみれにする訳にはいかないでしょう。

そして、その当時人気であった「スパイシーチキン弁当」を購入した。
家に取り残されていたお弁当をまず温めてもらって、明日この「スパイシーチキン弁当」を温めてもらいたいと伝えたところですね、

良いですよ

ってことでした!

他のお店のやつはご遠慮くださいとね。
どうやら、7イレ〇ンの「イカフライおかか弁当」はダメなようだ。
他店のものだから、当たり前か。

今、もう売ってないんじゃないかなあ。
イカフライおかか弁当。

俺が一人暮らしをした時に、初めて買った弁当がこれだった。

ひとまずスパイシーチキン弁当を温めてもらった後、再び我が家へと戻る。

「…」

ドブまみれの床に座り、弁当を食いながら、部屋を見回す。

「…」

季節は、初秋ではあるものの、残暑が厳しく残る季節でもあった。

「…」

これからどうしようかというより、もう一秒先をどうして良いのかが分からない。

俺は明日から三連休だった。
公休を使っていなかったため、今年度に消化しなくてはならない何日か残っていた為だった。
消火だけにね。

はい、オヤジギャグですが何か?

「…」

弁当を平らげた俺は、ある決心をする。

「…旅に出るんだ、俺ッ!!」

そして…

(続く)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次