【とあるバーニング旅物語・3】

(前回でのあらすじ)
・社会人となり、仕事も生活も新しい環境に慣れ始めてきた私。
それなりに甘ったれた学生生活からも脱却をし始め、何とか社会に適合し始めようとしている時でした。

ところで、今では「○○ガチャ」みたいな言葉がありますよね。
親ガチャとか、隣人ガチャとか、何か良く知らないけれど。
「運」とかにも、ガチャとかあるのでしょうかね。
強運の持ち主とか、日常の会話でも時折耳にします。

例えば、「幸運」と「不運」が、ルーレットを回した確率で起こる、もしくは引き当てるとしましょう。
内訳は、全体で100個あるとして、99個が「幸運」、1個が「不運」であったとした場合。

私は、一つしかない「不運」を、必ずといって良いほど引き当てしまうという、まるでどこかの勇者の様ではありませんか!

これは、こうしたものを引き当てる自信がある、とか自分で思っているものでも何でもありません。

生まれ持った、特性なのだ!
天より授かりし、特殊能力なのである!

そんな私に、他者は時には優しく慰めて、
時にはどうして良いのか分からず憐れみ、
自分は何でこんなことばかりと不運を不思議に思い、
いつの間にか他者の不運まで吸い取ってしまう能力にまで覚醒してしまいました。

そうした経験値が蓄積され、自他ともに認めざるを得ないという類稀なる能力であることにほぼ間違いなくなってしままったのであります!

こんなことにより、
「奇跡的に運ガチャでは絶対的に悪いものをを引く特性を持っている」
と言える訳です。

しっかりそこだけはこの頃から自覚していました。
だが都合よく考えれば、
「一つしかない不運を引き当てる強運の持ち主」
とも言えるのです。
そのため、逆説的には一般に言う「強運」の持ち主なのかもしれません。

はい、分かっています。大変都合よく考えております。
しかしながら、こうした事によりポジティブ思考が鍛え上げられるのであります。

…という事で、長い間ブログの更新もせずに申し訳ありません。このようなブログにそれでも見に来てくださってくれていた皆様には、心より感謝申し上げます。
本編前に、少し違う話題をしれっとさせていただきました。
では、以下続きを楽しんでいただければと思います。

(とあるバーニング旅物語・3)

そして…

迷っていても仕方がない。
焼け焦げた自宅を後にしてさっさと旅に出る事を決めた。

「…」
まあ、こんなところに居てもい方がない。
今のところ、住めないからね。

さっさと酷い惨状となった部屋の中からまだ何とか着衣できそうな衣類だけを持ち、南の方に旅に出る事に決めた。
丁度、公休なのだから休んだところで同僚に迷惑をかける事もないだろう。

この頃、私は極貧ながら一応車を所持していた。
私の初代相棒である。

かなり古い型で走行距離十数万㎞にもなっており、それなりの愛着がある。少し無理させると直ぐにどこかがブッ壊れる、という代物であったが、その辺がまた良いのよねぇ。

相棒の想いもちゃんと伝わるし(私がそう思っているだけです)、
以心伝心ってやつでしょ。

そして、ぐちゃぐちゃになっているアパートの廊下を更にぐちゃぐちゃにして歩き、少し離れた駐車場に相棒を迎えに行き、適当に部屋から持ってきた荷物を放り込んでいるその時、

誰かが我が家の前に来ていた。

その、「誰か」というのは、職場の同僚の一人、先輩にあたる人物だった。
この「誰か」を、これから「A」と呼ぶことにしよう。

A(自称シャレオツな男)が我が家の前にやってきたのは、ソイツの日中の勤務時間だ。
勤務中に場を離れるなど、職務専念義務に違反しているというのは当たり前なのだが、
当時の我々の職務上、特別な理由として例外もあり、その職責上それは認められていた。
なので、私のアパートであるとしても、来れない場所ではない。

私のアパートは前述のように職場からは近く、
職場のすべての人間…例えば、職員が100人いたとしよう。
そうしたら、100人が知っている場所にあったため、こうした

「何某かの理由」

で、仕事中に来ることも可能な場所であった。
だが、何にしてもロクでもない特別な理由だろうし、ロクでもない先輩であったし、勤務時間中にこんなところにノコノコやってくるとか、その時点でもうロクでもないイカれてやがる人間なのだ。

また、後日談となるが、俺の職場には心温かい同僚の方も沢山いた。
そうした方々は、有志を募って復旧の目途が立たない我が家について真剣に考えて下さり、時に訪れて下さり、その他諸々、沢山助けていただきました。
未だに、その恩を忘れてはいません。皆様の持つその良識のおかげで、どんなに俺の心が救われたことでしょうか。いつまでもその優しさを忘れる事はありません。

A先輩以外の皆様、本当にありがとうございました。

で、

「おーい」←自称シャレオツな男Aの呼び声
と、私に向けて声をかけるAの表情は笑顔に満ちていた。

「…」

何故か、ふつふつと身体中の、何か得体の知れない力が湧き上がってくるのを感じる。
何ていうんでしょうかね、その隠そうともしない「物珍しいものを見てみたいー」という下卑に満ちた笑い。
単なる野次馬根性+α、で来たことには違いないようだ。
すぐさまDDTでもぶちかましたくなったが、そこは私ももう大人なのだ。
怒りにより力の加減が解き放たれた今、そんな事をしてしまったらAは「もっとシャレオツな生き物」になってしまうだろう。元がぐちゃぐちゃなんだから、もっとグチャグチャになると丁度良くなるものですよね。

とにかくコイツは、普段は人間っぽいかもしれないが、今は違う。本性が出ているのだ。
コイツは虫だ。害虫である。

そういう訳で、虫だけになるべく無視しながら適当にあしらうことにする。

私:「どうしたんですか?」
A:「なかなか家が燃えた人なんか近くにいないからさー。記念に見ておこうと思って」

………
……

さすが、『自称シャレオツな男』の言う事は違う。
違いが分かる男、というやつでしょうか?

しかしねぇ。
良く、そんなこと言えるねぇ。
もしかして、後輩だからって舐めてるのかい?

このクソ野郎はァ!!
口の利き方も知らんこのドポンコツがあ!!
頭脳は子ども、身体は大人ってか?
てめえの頭の中に入っているのは梅干しの種か?

やっぱりDDTを喰らわして頭脳を見てみないと気が済まねえぞこの小僧が!!

…と、いくらなんでも、そんなことは出来ません。

俺まで考える事がおかしくなりそうであった。
延々と汚い言葉を吐きそうになってしまった自分を何とか治めて、
昆布茶はないけれど代わりにドブ茶ならその辺にあるから飲んで行ってください、と丁寧にAに勧める。
当然のように、いらないですって。
全く、人をムカつかせた挙句、ドブ茶まで断るなんて、どういう神経していやがる野郎だ。プンスカプンスカ。

「…」

とにかく、こんなやり取りで時間を割くわけにはいかない。私はAを放置しながら、せっせと出発の準備に取り掛かる。
最も、Aは手伝う気も何もなく、そんな私を単に見ているだけであった。

そして、一時間ほど経過。
この一時間がなんと長かったものか!
無視したいはずのAという、この害虫!
放置したいという俺の気持ちを無視して、所々ウザったく、無限に湧き出てくるコバエのように絡んできやがる。
害虫以上に進化を遂げる生き物、それがAだ。

虫だけに無視を決め込む、という俺の数少ない必殺技であるオヤジギャグすら通じず、
虫だから羽をムシらないで、とかいう謎理論で死語のギャグを次元超越してくるという、
どこかの世界からやってきた虫の様でしたとさ。

こんなのを相手にしていたという事もあり、出発する前にとてつもなく精神力を消耗してしまった。
これからの運転に、普段以上に気を引き締める必要があることを自分に言い聞かせる。

俺は、A先輩に言った。
「では、これで失礼します。ありがとうございました」
はっきり言うが、こんな野郎にお礼など言う必要性など全く感じてはいなかった。
まあ、普段の習慣ってやつだよ。
さっさと離れたかったしね。

そして、いざ出発、とクルマに乗り込んだ瞬間、Aは言った。

A:「そういえばさ」
俺:「…はい?」
A:「さっき少し見えたんだけど、写ルンです(註1)あったよね。それで写真撮らせてよ」
俺:「…はい?」
A:「だってこの先、もうこんな珍しい事ないと思うからさ。ちょっと貸してよ」

先輩、という立場のAが、出発前の俺に行った事がこれだ。

………
……

そして、例によって俺の心に天使と悪魔が降臨した。

俺の天使:「写真くらい撮らせてあげなさい。そして写ルンですを渡す瞬間に、何でもいいから壊してしまいなさい。器物破損で訴えれば、Aさんには天罰が下るでしょう」
俺の悪魔:「写ルンですをAに渡せよ。構えた瞬間に『こういう構図の方が良いよ』とかテキトーな理由を付けて、手が滑ったフリをしてDDTをブチかまして終わりだぜ」

「…」

なに?
彼らは、同じこと言っているのかね?
意味合いが同じに受け取れるんですけれど。

いや、コレは、アレなんじゃない?
俺の怒りが、もうヤバすぎる状態。
何を思ってもこれしか出てこない。
こいつらの意見が合う事なんてある?

もう一度、天使VS悪魔に耳を傾けるが、
彼らの言葉はどんどんと放送禁止用語に近いものになっていき、歯止めが効かなくなっていった。

とにかく、

とんでもない被害に遭った人間に対して、それをただの野次馬根性を超えて自身の笑いのネタにしたいという、
こうした神経の持ち主とは一刻も早く会話を終わらせることが重要だ、ということを最優先する。
今後の職場での付き合い方も面倒くさくなるし、なるべく角が立つ言い方をしない方が無難だ。
そうしないと、いつまでもこんなゴミ野郎を相手にしなければならず、若くして俺の心の天使が堕天使になってしまいそうだ。

適当に話を切り上げようとして、写ルンですのダイアル(一回写真を撮るごとに、フィルムを手動でクルクルと回す必要があったのです)を見ると、

そこに示されているフィルムの残数は「1」であった。
つまり、あと一回撮ったら終わり。
撮ったものの確認など出来ないのである。

「あ、ちょっと失敗したかなー」

とか思えば、何度もシャッターを切り、その度にフィルムを消耗し続けるのが写ルンです!
というレンズ付きフィルムカメラなのです!

よって、今の状況においては、

「もう一枚撮らせてよ」

と、仮にAから言われたとて、そこら辺のお店で新しい写ルンですを購入してこない限り、
これ一撃で終わるのだ!

そして、俺は言った。

俺:「対面から撮ると良いかもしれませんね」
A:「俺も丁度そう思ってたんだよね」

そうして、Aに写ルンですを渡した。

A:「あ、もうちょっと左に寄ってよ!そうすると丁度良いと思うんだよね!」

コイツ、もしかしたらとんでもない才能を秘めている奴なのかもしれない。

絶対に開花することのない、世界に一つだけもない花のようにね。
何かの唄にも、詩にも出来ませんよ。この才能を見出したとしても。

で、さっさと言う通りにして一枚撮ってもらった。
そして案の定、
A:「ちょっと失敗かもしれないなあ…もう一枚撮らせてよ」
俺:「あ、すみません。もうそれ終わりなんですよ」

そう聞いたAは、写ルンですのダイアルを見て、「なんでなんだよー!」と不機嫌になりだした。
俺:「じゃ、今度新しいの買っておきますんで。今日はありがとうございました」
と、写ルンですを回収してさっさと相棒に乗り込み、とっととその場を去る。
Aが何か言っていたようだが、そんなのはもう知らん。
「今度って…」とか何とか聞こえた。

更に、
「げんぞうー!」

というのだけ、はっきり聞こえた。

ナンスか?
凄いキャプテンで翼くんチームのSGGKの事?
その方に会いたいのかね?

しかし、そんな今度は絶対に来ませんよ、A先輩。

ルームミラーに映るA先輩を置き去りにして、俺はやっと出発する。

そして…

(続く)

註:1

フジカラー「写ルンです」(フジカラーうつルンです・: Fujicolor Utsurundesu[)は、富士フイルムが製造販売するレンズ付きフィルムである。日本国外では、Quicksnap(のちにQuickSnap)などの別称で販売されている

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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