【とある旅物語・30】

・前回までのあらすじ
思いもよらぬ休暇命令を受けた俺は、相棒(クルマ)と共に北の地へと旅に出た。
軽く、一泊ぐらいと考えていたが現実はそうではなかった。
途中、色々とあったが帰路に着いている最中。
相棒の装備に関しての問題が起こってしまう。

そして…

…」
コーヒーを飲みながら、このタイヤチェーン問題について考える。
幾つかの選択肢があった。

【問題】

①自力で何が何でも外す
→この場合、あらかじめクルマに装備されているジャッキを使うことになる。
片方ずつ下に入れ込んで、クルクルクルクル回す簡易的なあれだ。
主な用途としては、パンクしてしまった時になど、応急処置的に使うものである。

②チェーンを付け、このまま200㎞以上の走行をする
→可能ではあるが、その後の相棒へのダメージ(足回り)が、とんでもないことが予測される。
その後の整備費用、今後の相棒のコンディション維持などを考えると、やけくそとも言えるこの選択は出来ない。

③車中泊をして、SAのスタンドが落ち着いてきたころにチェーン問題の解決を図る
→現状を観察すると、無理だ。そこは、もう混沌に満ちているのだ。ラジヲを聴く限り、もう報道されているぞ。
通常の走行になるには少なくとも3日くらいはかかるでしょう、とか言ってるぞ。

【解答】

①相棒のジャッキでは無理だ。
何故なら、Jさんが使用していたのは、油圧式のどデカい完璧に整備用のやつだ。俺の所持している、しょぼい自力アイテムではないのだ。
専門アイテムなのだ。
なので、このタイヤチェーンが装備できた。
よって、外すときもこれがなければ難しいし、俺は最初からやり方を見ていない。
その為、かなりの艱難を極めるのだ。

②そのまま走る。
それは可能なように思えるが、途中で何が起こるか分からない。
チェーンを履いたまま長距離走行って、嫌な予感しかないですな。
途中で、パンクしたりとかあるよ。
相棒の、その後の足回りにも絶対に影響が出るだろう。
足回りに影響=走行の具合が悪くなる=お金が吹っ飛ぶ、そんだけよ。

③車中泊をする。
問題解決した頃には、すでに車中泊に慣れてしまった身体、だけが俺には残る。
人を変えるには、3日もあれば十分だ。
もう、今までの生活を棄てた生活習慣の残る自分のイメージだけが鮮明に映った。

「…」

とりあえず、相棒に収納されている「全国道車中マップ」を見る。
かなり前に、本屋さんで3000円くらいで購入したやつだ。
だが、細かいことまでは分からない。細かく書かれている文字だけは、分かる。
っていうか、このマップで把握できる人間て、凄いよね。

「とりあえず、ワタクシがいる現在地は何県のどこそこですよー」

という、かなり雑な情報だけは、分かる。

もう、打つ手なし…詰んだか…

そう思う俺に、相棒が何か言ってきた。

「『最後の力の一歩手前』を使えよこの馬鹿野郎」

………

……

…へ?

相棒に何を言われたのかは分からなかったが、少し考えてみた。

俺の必殺技、

「最後の力の一歩手前」については、これまでの話中で解説してきたため詳細は割愛するとして、

「一日に三回しか使えない」

という、その技自体が強力が故に、自滅する可能性が高いため縛られたルールがあったのだ。

それでですね、

昨日使用してからもう一日、24時間以上経っている。

要するにもう一日過ぎたので、本日は
「最後の力の一歩手前」が、あと三回使用できる状況になっているのだ。

相棒は、それを使え、と言っている。

「…」

ふむ。
だが。
とて。

今それを使って何をするんだ!
使い処が、全く分からないぞ!
あえて自爆すれば良いのか!?

相棒の言っている意味についてしばらく考えるも、解らなかった。
しかし、「最後の力の一歩手前」を使え、と言っている。
インチキ技である「最後の力の一歩先」、ではないのだ。

どちらにしても、「最後の力の一歩先」を使えるまでのイメージ力が、現段階では俺には不足していた。
今のイメージ力で使用できるのは、「最後の力の一歩手前」だ。
なんか、どっかでネガティブになってんだよなぁ…
だから、イメージが完成しないのもある。

相棒の言うことだ。
必ず、この「一歩手前」と「一歩先」の違いに、意味があるはずだ。

「…」

コーヒーを飲み干し、空になったカップを棄てるために一度相棒から降りる。
ゴミ箱の横には、インフォメーションボードと、その中にそこら周辺の地図があった。

見る。

そしてこれは、決して悪く言っている訳ではない、ということを前置きにしておこう。
こういうインフォメーションボードで、行きたいところを直ぐに確認できますかい?

大体、かなり離れた大型施設とか、
○○市街とか、
何とか山とか、

そういう大まかなことだけじゃない?見た情報で分かるのってさ。

しかし、良ーくその地図を見るとですね、

「ものすごく薄い線で書かれているくねくねとした山道」

などがあるのだ。

結構、こういう部分には重要な何かがあったりする。
何かの秘密基地とか。見たことないから知らないけど。

例えば、出発時からお世話になっているガソリンスタンド。
ガソリンスタンドは、当然ながら石油を運んできてもらって、タンクに貯蔵し、油を売るという作業がある。
で、このガソリンはいったいどこからやってくるのかというと、
大型のタンクローリーが運搬してくるのだ。

山道に、何故かガソリンスタンドがないという疑問を抱く方も多いであろう。
これは単純な話、大型のタンクローリーが180度の山道カーブを曲がることが出来ないからだ。
しかも、曲線だらけの上り坂では大型車両は前進することもままならない。
だから、ガソリンスタンドが必要としているガソリンを、タンクローリーは届ける事が出来ないのだ。

はぃ、単なるワタクシの勝手な考えです。偉そうに、知ったかぶってみました(‘◇’)ゞ
本当かどうかは分からないので、良い子のみんなはこんなことを鵜呑みにしてはいけません。

また、スタンドがあったとしても、交通量の少ない山道では大赤字だ。

しかし、ドライブスルーみたいな休憩場所って、山間部にあるよね。

何でか知らんけど。
だが、それはそれで、ありがたいことなのだ。

こうした理由の為、

「坂道の入り口」などに、
重要拠点があると結論付ける。

「…」

ボードから、薄くなっている道を見る。
これは、ナビにも載ってないやつだよ。
相棒にナビはないから分からないけど、きっと載ってないよ。

「…」

ここに何があるのかは分からないが、ボードを見るに、
おそらくこの箇所付近にそれらしきものがあるはずだ。
この「薄くなっている道」が、強烈な存在感を放っている!

「こちらが最終補給ポイントですよ!」
「この先、何もありませんよ!」

そういった看板を掲げるガソリンスタンドは、実際にある。
というか、過去にいくつかあった。

そして、今見ているこの道を通って山を越える事が、我が家への帰路にもなっている。

全く根拠がないが、その「薄くなっている道」へと向かうことにする。
そして、この道へとアクセスするための高速出口をチェックする。

先程、相棒が言っていた「最後の力の一歩手前」は、まだ使用するポイントが分からないままだが、
念頭に置いておく。

相棒の残りのガソリンをチェックする。
残量は2/3程度だ。
また、予備のガソリンも今回は用意しているため、何かあっても、何かの手立てはあるはずだ。

「…」

俺はさっさとトイレットにて用を済ませ、とっとと自販機でお茶を購入。
非常時の水分は確保したぞ。

ダッシュボードに整備用のグローブをしまい込んで、相棒のエンジンをかける。
ハンドルを握り、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

「…」

さて。もう動き出してしまったぞ。
ただでさえ知らないこの地域の、更に知らない場所へと向かうことになる。

この先、相棒と俺に待ち受けるものは…

(続く)

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